透明人間 大旨マトモ

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  『遅刻遅刻ぅ~』 朝、昇降口へ入った瞬間。 視界の端をカボチャオバケがそんな妄言を吐きながら横切って、わたしは頭が痛くなった。 『もうやだわたしったら♪ 今日に限って寝坊しちゃうなんてぇ♪』 私立鳩朔学園。「生徒の個性と創造力を尊重し、自由にのびのび幸せな未来を切り開く力を身につける」学校。わたしの所属する生徒会の議案もこのスローガンに沿って話し合うのが通例だ。 まぁ、それは大いに結構だと思う。むしろわたしが望んだ環境でもある。 厳しい両親から抑圧されて育ったわたしは、自由な環境というものに憧れていた。小さい頃から塾や習い事に通わされ、いつだったか小学校のころに「将来の夢は?」と先生に聞かれて「自由」と答えたらものすごく可哀想な目で見られたのを覚えている。 そんなわたしにとって、「自由にのびのび」とか「個性と創造力を尊重する」なんてスローガンを掲げる学校に入学できたことは、鬼の形相となって猛反対する両親と仁義なき戦いを繰り広げた末に獲得した輝かしい未来の一つに他ならない。 ただし……。 ただし、である。 『ああん♪ はやくしないと職員会議に遅れちゃうわ~♪』 「全教員を束ねるべき教頭がカボチャオバケの着ぐるみを着た上にヘリウムで声が裏返った性別不詳のリアルモンスターじゃなければな!!」 『あら、生徒会庶務のマトモちゃんじゃない』 「わざわざご紹介ありがとうございます」 わたしの名前は大旨真友(おおむね まとも)。生徒会で庶務を務める一年生だ。そしてこのカボチャは教頭。それ以外の何者でもない、つまり性別どころか姓も名前も完全に不詳な電波野郎なのである。 しかも、この自由にのびのび個性と創造力を完全に間違った方向へ伸ばし切った本校スローガンの負の権化は、非常に心から力の限り不本意な事に、全校生徒を束ねるべきわれわれ生徒会の顧問なのだから始末に負えない。 「教頭。いつも言っていますが校内では着ぐるみを脱いでください」 『あらやだマトモちゃんったら、この教頭のナイスボディに嫉妬むらむら?』 「その全身着ぐるみのいったいどこにナイスボディを見出せばいいんだよ」 『それともメロメロかしら、公衆の面前で服を脱げだなんて、だ・い・た・ん♪』 「うるせぇよ! だいたいそれ服じゃねーだろ着ぐるみだろ!!」  
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