透明人間 大旨マトモ

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  今日もこの教頭はヘリウムで裏返ったキンキン声で受信帯域不明の脳内電波を垂れ流す。たったの二言でここまで神経を逆撫でしてくる人間をわたしは他に知らない。いや、そもそも人間なのかコイツ。人間辞めてるだろどう見ても。 「だいたいあなたは! いつもいつも教育の場に相応しくない格好ばかりして! 入学式の日はハチミツの壷を担いだ黄色いクマのぬいぐるみだったし! その後も姿を現すたびに……!!」 ヤギ、パンダ、プレデター、サンマ、とにかく見かけるたびに意味不明な全身装飾具で鬱陶しいくらい個性を主張してくる。昨日のサンマはマジで意味が分からなかった。生徒会室の机に寝転ぶなり『ほらほら美味しいわよぉ秋の味覚よぉ優しく食べてね』本気で火をつけてやろうかと思った。『あ、中身だって今が旬なのよ? 結婚適齢期ってやつ?』知るか黙れよ会議が進まねぇんだよおかげで下校時刻過ぎても議案がまとまらなくて今日もまた会議なんだよ……!!」 途中から声に出ていた。 『あーあー、もうマトモちゃん、カリカリしなぁい』 「誰のせいだ! 十三日の金曜日なんかチェーンソーでうちの教室ズタズタにしやがって!! おかげで物理的に学級崩壊したじゃねぇか!! 今日もホームルームは物理準備室でやるんだぞ狭ぇんだよ!!」 ちなみに一昨日から生徒会で話し合っている議案も、該当教室の修繕費についてである。ホントコイツ教員辞めればいいのに。何で人間辞めてんのに教員辞めないんだよ。 『やだもうマトモちゃん、そんな昔の事を持ち出して、野暮なんだからっ♪』 「学校の教室をチェーンソーでズタズタにするとかフィクションに登場する不良のヘッドですら躊躇うような破壊行為を咎めたら野暮なんですかそうですか! つか昔じゃねぇよこの間の金曜日だよお前の頭は三歩進んだら忘れるニワトリか!!」 『えっ? 今日の頭はニワトリじゃなくてカボチャなんだけど……、連日の激務で疲れているのかしら?』 「疲れているのは確かだけど激務のせいじゃねええええええ!!!!」 連日の激務は誰のせいだああああああ! と、そんな不毛極まりないなやりとりをしているうちに予鈴が鳴った。本当に不毛すぎる。校長のハゲ頭より不毛だ。こんなのを教頭に採用するとか何考えてんだ。ハゲてんのは外側だけにしろよ。  
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