18人が本棚に入れています
本棚に追加
『いけない、もうこんな時間! 職員会議に遅刻しちゃうわ!! それじゃあマトモちゃん、また放課後に会いましょ』
「待てコラァ!」
バァン! と、思わず手が出ていた。教頭の行く手を阻むように右腕を壁に突き刺した。少女漫画でよく嘘くさいイケメンが披露する壁ドンというやつだけど、心理状態は不良マンガで根暗に絡むヤンキーより遥かに荒んでいた。
「キャっ、どうしたのマトモちゃん、今日は随分積極的じゃない?」
「着ぐるみの身体をぐねぐねさせるな気持ち悪い」
「ち、力ずくで襲う気? き、嫌いじゃないわよ、そういうの……」
「キメェつってんだろ!」
中身はどうせハゲたおっさんだろ!! オチはだいたい見えてんだよ!!
「教頭。今日はいったい何をする気ですか」
この間の金曜日は全身厚手のジャンパーに白い仮面だった。入学式の日は校歌斉唱中に興奮した黄色いクマが頭からハチミツを被って新入生の席にダイブして大惨事となった。
「あなたが具体的なテーマ性を持った全身装飾具を身に着けている日って大概ろくなことにならないんですが」
昨日のサンマの例も考慮すると、具体性が高い時ほど被害が甚大になる傾向がある。今日のジャック・オ・ランタンの着ぐるみは十三日の金曜日を越えるほどの危険を孕んでいると予想されるのだ。
すると教頭はどういうわけかカボチャ形の手袋をくいくいと指して、わたしの視線を誘導する。無意識に視線を遣って、
「……」
後悔した。そこにはコンクリートの壁に張り紙で『壁ドン・顎クイ禁止』とか心底意味が分からない。そんなに壁ドン横行してんのこの学校。
『マトモちゃん校則違反いけないんだぁ♪ 違反ついでに顎クイもしてみる? してみちゃう? きゃあ♪ わたし、こういう時にデレられると弱いのよぉ♪』
「顎クイするついでに首の骨へし折ってその何も詰まってねぇ頭ぁ着ぐるみごと闇市にでも売り飛ばしてやろうかああぁあぁあぁ!!」
そもそも顎クイしようにも顎がどこだかわかんねぇんだよ!!
〇
私立鳩朔高校は自由な校風が売りである。わたしもそんな校風に惹かれて入学を決めた一人なのだけれど、いざ入ってみるといささか自由すぎる、いや、いささかどころの騒ぎじゃない。
あれだけ世間体に縛られた両親を嫌って入学したはずのわたしが、たった半年足らずで常識という二文字を恋しく思う有り様だ。
※㈲ユウ様 著
最初のコメントを投稿しよう!