透明人間 大旨マトモ

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  よってわたしは全校生徒の未来のため、そして何より本当の意味で自由な高校生活を送るため、この学校に規律を取り戻すべく生徒会庶務として日夜奮闘しているのである。 日夜奮闘、しているのに……。 「きゃあリンちゃん、何その着ぐるみキモカワイイ~」 「ゴブッゴブッ」 何で全身ゴブリンなのに友達の見分けがつくんだよ。リンちゃんって言ったら、 「……もしかして生物係の五分凛(いつわけ りん)さん?」 「ゴブッゴブ! ゴブゴブゴバァ」 「……」 とにかく朝、教室に入るとそこはまさに混沌の二文字に埋め尽くされていた。 「わはは! おい柱弐(ちゅうに)、何だその格好、厨二病か?」 「いやドラキュラゆうてますやん。フハハハハ! 血を、我に血をおおおぉおおおぉお!!」 「あんたはまた……、柱弐! 教壇から降りなさい! 非常識にもほどがあるわ!」 「うげっ、出はったな、堅物いいんちょ!」 「わたしは堅物じゃない、普・通・だ!」 豆苗栽培部とか意味の分からない部活に所属する柱弐君は黒いマントを羽織って教卓の上で高笑いしているし、 「観自在菩薩アアアァ行深いぃん般若ああぁハラ密多アアアァアアァ!!」 「うるせぇ!!」 径怨樂部(けいおんがくぶ)の呪井(のろい)君は真っ白な死装束に身を包んで大小の木魚と金をドラムロールの如く打ち鳴らしながら般若心経を絶叫しているし、サボリの常習犯、佐保田亜樹(さぼた あじゅ)さんに至っては『体育以外眠り姫』とか書かれたハチマキを締めるだけという手抜き極まりない仮装で公然と居眠りを決行しようとしている。 何だこの地獄絵図は。どいつもこいつも受信帯域不明な教頭の脳内電波を正確無比にキャッチしやがって。冗談じゃない、あんなの一人でも手に負えないのにこれ以上増やしたら常識の概念と共に精神世界がゲシュタルト崩壊して廃人になるわ! 「常識いいぃいいぃカムバアアァアアァッ!!!!」 「えと。おはよ、マトモちゃん……」 そんな中、いつもと変わらぬ親友の笑顔が心に染みた。彼女の名前は桃部椎(もぶ しい)。少なくともわたしが知る限り、この学校で唯一といっていいほど普通の女の子だ。 「ううぅっ! 椎いぃっ! あんただけだよ、わたしのオアシスううぅうう」 「わっ、わ……」 勢い余って抱きついた。  
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