透明人間 大旨マトモ

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  おかっぱ頭のこの親友の身長は高一にもかかわらず身長百四十センチ未満という比類なきミニサイズで、抱き心地も最高なのだ。そしてふと気づく。 「あれ、椎は仮装してないのね?」 「え、ええと、一応してるんだけど、……この服」 「服?」 ぱっと離れて見ると、椎はパーカーの中に人体の内部構造がやたら克明に描かれたTシャツを着ていた。どこで売ってたんだそんなの。 「よ、妖怪、内臓丸見え人間……」 「その発想すげぇな!!」 「や、やっぱりだめかな、みんなみたいな格好するの、ちょっと恥ずかしくて……」 「いやいいの、いいのよそれで! アンタまで教頭に毒されたらわたしはいったい明日から何を支えに生きて行けばいいの!!」 あぁくそう、恥ずかしがってもじもじする姿に胸の中がむずむずする! 恥の文化バンザイ! もういっそ学校中の生徒教員ひとり残らず椎のクローンならいいのに! 「マトモちゃんはその三角帽子、魔女の仮装?」 「え? あぁ、うん。このくらいなら一般常識の範囲で見てもらえるかなって」 そう、たとえば学校の校則で仮装が義務付けられたとしても、わたしや椎くらいのものが常識なのである。……って、 「そもそも学校の校則で仮装が義務付けられる時点で常識じゃねぇよ!!」 うがあああガシガシガシ!! 無意識下で崩壊しかけていた常識の概念を再構築するべく頭を掻き毟る。こっちのムズムズは脳味噌を直接掻き毟れないのがもどかしくて仕方ない。 「いや、えと、マトモちゃんそれ……、すごく似合っててカッコイイ、よ」 「うぅ……? そ、そうかな? ありがと、うげへへ……」 無防備すぎる椎の言葉と笑顔に胸きゅんするあまり我ながら気持ち悪い笑い声が漏れた。実は普段着を着て『透明人間』とか投げやりな仮装も考えていたんだけど、ほんのちょっとだけ、仮装して良かった……、なんて常識人を自負する生徒会役員にあるまじき思考が頭の片隅をよぎってしまった。 〇 その予想だにしなかった異変は、放課後、わたしがお手洗いに立ったほんの二、三分の間に起こった。 「アアアアァァアアアアァ゛ア゛ア゛ァ゛」 突如、廊下中に響き渡るほどのおどろおどろしい悲鳴が上がったのだ。 「え、今の……!」 それがわたしの教室というか物理準備室から響いた声だと瞬時にわかったのは、他でもない、わたしの心のオアシス、椎の声だったからだ。  
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