空腹は最高の調味料

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「あらあら、そんなにがっついちゃって。料理は逃げないわよ? 私としてはもっと味わって食べて欲しいんだけど……」 「んぐっ、はぁ……っもぐもぐ、体が徐々に回復していく~!」 「ふふ、一心不乱に頬袋一杯にしちゃって。兄さん、この人気に入ったわ」 「そうかい。それは良かったな」 お兄さんはぶっきらぼうにそう言うとそれきり口を閉ざしてテレビのリモコンを手にとってチャンネルを変えた。 この二人の関係性がよく分からないな……。 いや兄と妹って関係なんだろうけれど、それにしてはなんだこの冷たい空間は。 「なあ」 俺が彼女達の兄妹仲について秘かに分析していると、まさかのお兄さんの方から話し掛けられた。 「は、はい」 若干上擦った声で応じるが、お兄さんは気にすることなく問いを投げてくる。 「お前、マジでよくそんなもん食えるよな」 「え……?」 「もう、兄さんったら。余計なこと言わなくていいの。それよりお代わりはいる?」 俺は少し考える素振りを見せた後、折角だしお言葉に甘えて、と言うことで笑顔でそれに応じた。 三日間ろくにご飯を食べてこなかったせいか、大分腹は満たされたがまだまだ詰め込めばいけそうである。 高校を卒業したばかりの男子学生の胃袋を舐めて貰っては困る。 「分かったわ。すぐよそって持ってくるわね」 そう言って空になった皿を下げる彼女の後ろ姿を見送ったのち、俺は気になることをお兄さんに尋ねた。 「あの……二人暮らしって、ご両親は別の家に住んでるってことですか?」 「それ、あいつが言ったの?」 「はい、そうですけど……」 「ふぅん」 なんだろうこの含みを持たせる感じは、物凄くモヤッとさせられる。 と、そこで彼女は妖艶な笑みを浮かべて戻ってきた。 手には何も持っていなかった。 「そう言えば、聞くの忘れてたと思って」 名前とかかな? 俺も美しい彼女の名前を知りたいと思っていたところだ。 だがしかし、次に発せられた彼女の言葉は俺の予想を遥かに上回ったのだった。 「お父さんの『お肉』は美味しかった?」 --多分きっと、 これが全てのはじまりだった。 (おしまい)
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