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俺は覚束ない足取りで夜道をさ迷っていた。
大学生の俺はサークルやらゼミの付き合いかなにかで何かと金が外に流れていく身に置かれている。
そしてとうとう恐れていた事態が訪れようとしていた。
現在の俺の所持金は105円だ。
消費税が上がった今ではおにぎり一つもまともに買えやしない。
三日前から一日おにぎり一個生活を続けていた俺の腹の虫は既に限界だった。
定期的に親から送られる仕送りは明日なので、今日という日を乗り越えればなんとか生き長らえるのだが……。
如何せん、俺は今お腹が空いているのだ。
今、空腹を満たさなければ意味がないのだ。
とは言ったものの、プライドだけは無駄に高い俺は親や友人に『餓死しそうなので飯を恵んでくれ』と頭下げることは出来ない。
万策尽きたというのはこのことだと思ったその時、腹がぎゅるると音を立てて鳴った。
徐々に胸の動悸が早くなり、呼吸をする間隔も短くて、立っていることもままならなくなった俺は、電柱に手をつけて片膝を地面につけた。
ーーところで、突如頭上に降りかかる人の影に視線が上を向く。
「ちょっと、大丈夫?」
少しキツく感じた女性の声とは裏腹に心配そうに寄せられた柳のような眉毛。
「あ、はい。多分時間を置いたらよくなると思いますので」
「その割りには今にも死にそうな形相だけど……」
「いやー、恥ずかしい話単にお腹の空きすぎだってだけなんで、はは」
初対面の人間にこんなことを告げるのは忍びないが、どうせ今日限りの出会いなのでどうにでもなれ精神でいた。
それにこれだけ綺麗な人の時間を俺のような貧乏学生が搾取しているという事実もまた心苦しい。
命に別状がないことを知れば目の前の女性は納得して静かにこの場を立ち去るだろう……とたかをくくっていたのだが。
「だったらウチくる?」
彼女の言葉に耳を疑った。
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