序章

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雑居ビルが軒を並べる、とあるビジネス街の一角。 定時時刻に出社をし、タイムカードに打刻をした水沼は今日も悩んでいた。 ……一体自分は何をやっているんだろう、と。 水沼の悩みの大部分を占めているのは、今勤めている会社の、その仕事内容の事である。 自分の適性にあった仕事をさせて頂いている……初めの内はそう思っていた。 単純作業の繰り返しではあるものの、コミュニケーションの希薄な職場は気持ちが楽であるし、自分の仕事の成果がすぐに分かる事も魅力的だった。 だが、そんな感情は、ものの一カ月で崩れてしまう事になる。 それは、自分が成果を上げれば上げるほどに、影で不幸になる人間が出てきてしまう現実を如実に感じてしまったから……。 仕事の成果を上げれば当然、会社側からの評価は高くなっていく。 水沼はこの会社においてとても優秀な人間だったので、成果の度合いも著しく高かった。 結果、水沼は瞬く間に地位を上げる事になり、後から入社したにも関わらず、前任の社員に指示まで出来る立場となっている。 そんな状況でも水沼は調子に乗らない。 あくまで人の良い性格は崩さないのだ。 これはあえて意識しているわけでは無く、水沼が生まれもって持っている天性の愛嬌なのである。 だから、そんな風に躍進していても同僚からやっかまれる事が無く、上司からは大きな期待さえされている。 良好な職場環境、出世も見込める、所得も上がる、資産も増える、そしてどうやら仕事内容は自分に合っているらしい。 様々な想いが水沼の脳内で錯乱していき、悩みを少しでも和らげようとする。 ……しかし。
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