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赤い砂に埋もれるようにして巨大な〈卵の殻〉が転がっていた。
太陽の光に銀色に鈍く輝く〈それ〉はかつての文明の結晶とも言える建造物で、このようなものを生み出した世界は高度な技術に支えられて富み栄えていた────
────けれど今はただの廃墟であり、世界は一面砂の海だった。
廃墟から砂丘をひとつ越えた場所に二つの人影があった。
頭上から光線を放っている真昼の太陽は彼らのために日陰を作ることはなく、彼らの陰も力なく足下にとどまっているばかり。
容赦なく照りつけられている砂は簡単に生物の肉を灼く熱さにまでなっている。
こんな時間帯に砂漠渡り《デューンラン》をする人間は珍しい。少なくとも徒歩で移動する者などいるわけがなかった。
彼ら以外には。
「じゃ、来いよ。俺の〈街〉に」
背の高い方の人間───痩身の男がにっと笑って相手に言った。
向かい合っている少女の方は、裸の上に膝まで隠れるだぼだぼのジャケットを羽織っただけ、もちろん裸足で砂の上に立っている。
普通の人間ならば火傷では済まされないが、熱さを感じていないのか、きょとんとして男を見上げていた。
同じように汗もかかずに灼熱の世界に立っている彼を。
「──一緒に行こうぜ」
少女はその言葉を吟味しているのか眩しいのか目を細めて彼を見ていたが、やがてこくんとうなずいた。
「ちょっと遠いけど……歩けるよな、俺らなら」
なんでもないことのように男はつぶやき、ひとりで砂丘を上り始めた。少女はあわててその後を追う。
火にかけられた鉄板状態の砂漠に裸足でさくさくと跡を残しながら。
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