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〈砂漠の果て(デザーツ・エンド)〉は朝から騒がしい。
もともと昼夜の違いなど存在しないような街だから、まだ日が昇ったばかりの時間帯でも下の通りには人々が行き交い、笑い声や怒鳴り声が響いている。
西地区から銃声も聞こえてきたが、どうせ裏取引が決裂して一悶着起きたのだろうと眠い頭で考えて、チハルはふわあと欠伸をした。
風通しのよい材質の服に着替え、三階の自室から一階のカフェへと降りる。
ルシファーはすでにカウンターの中に収まっていて、モーニングを作り始めていた。
「おはよう」
「おはよう、堕天使サマ。オレは何をすればいい?」
「まずはドアを開けて、それからこっちを手伝ってくれ」
カフェの入り口には、砂漠に適応した葉が分厚い観葉植物の植木鉢がある。
その下から鍵を取り出すと、チハルは店のドアの錠を外し、ガラスに下げられた札をひっくり返して「営業中(オープン)」にした。
それからカウンターの中に入っていって、オーナーと一緒に朝食を作りコーヒーを煎れた。
カフェが開いたと分かると次々に街の住人たちが集まり始め、十分もしないうちにテーブル席は埋まった。
この近辺でマトモな食事を出すのはこの店しかない。決して多いとは言えない座席数に対して、朝食を自分で作りたがらない人の多さゆえである。
朝のルシファーズ・カフェのテーブル席には座れない――――これは〈砂漠の果て(デザーツ・エンド)〉の人間ならば常識とも言える光景だ。
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