第1章

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深夜の図書室。 本来なら誰もいないはずの空間で本が開かれた。 彼の名は楪 奏多(ゆずりは かなた)。 数日前、彼の幼馴染である霧崎 綾(きりさき あや)が姿を消した。 事件に巻き込まれたのか、単なる家出か。 警察への届出がなされたものの真相は闇へと包まれている。 綾がいなくなったのは7月14日。 綾の居場所を知るための唯一の手掛かりはメールだった。 それに気づいた俺は、もう深夜だというのに『ごめん! 少し出かけてくる』そう親に言い残して家を飛び出した。 普段は放任主義な親の事を無責任だと思っているが、今回ばかりはそのおかげで助かった。 向かう先は学校。 月明かりを頼りに学校まで全力でチャリをこぐ。 そこにいるかはわからない。 ただ、本人は居なくとも手掛かりが残されていることを信じて。 ようやく学校が見えてきた。 無意識にメールの文面が脳裏をよぎる。 【図書室に行ってくる】たったこれだけの文面。 迷惑メールが多いせいでメールは普段、決して見ない。 そのせいで気づけなかった。 校門の柵をよじ登り、靴を脱ぐのも煩わしい。 気持ちだけが先走る。 後は階段を登って2回の図書室へ。 『綾、そこに居てくれ。お願いだから! 手掛かりだけでも構わない』 途中で、何度つまづいただろう。 気づけば足は擦りむいて、手には血が滲んでいた。 『やっと気づけた。俺は……綾が好きだ』 息を切らしながら図書室の扉を勢いよく開けはなつ。 暗く、静寂に包まれた室内に俺の足音だけが響く。 だが、誰もいないはずの図書室の一角から光が漏れていた。 『綾、いるのか?』 返事はない。 恐怖心、期待、怒り、それらの感情を押し殺しながらそっと近付く。 そこにあったのは、柔らかな光を放つ一冊の本。 題名は見たこともない外国語のようなもので書かれている。 黒い背表紙に包まれた、国語辞書くらいはあるんじゃないかと思うほどのそれを、ゆっくりと手に取り開く。 わずかな時間だが、月明かりが雲に隠れ闇が室内を支配した。 次に月が姿を見せた時、本の中身が映し出された。 全てが白紙。 何も書かれていないその本は次第に光を増していく。 やがて目を開けていられないほどの光を放った。 ーーこれが全ての始まりだった。
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