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焼け跡は、門に簡単なテープが張られているだけで、すぐ入れた。今や野次馬は一人もおらず、寂しく広い廃墟だった。
焼け落ちた洋館は、焦げ、崩れ、まるで何かの近代遺跡のようにも感じられる。
夕暮れの廃墟前で、『彼』は私を待っていた。
制服姿。さらさらの黒い髪。バランスの取れた中肉中背。眼鏡の下は一件柔和な笑顔だけれど、私はそれが、張り付いた能面のような笑顔に感じられてならなかった。
実際、能面のような笑顔だけれど―――文字通りそれは演技だって、私は知っている。
「良く来てくれましたね、水無瀬さん」
「…」
私は既に膝が崩れ落ちそうだった。
怖かった。
目の前の男が怖かった。
いつその腕が伸びてきてもおかしくないんじゃないかと思ってる。
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