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私が怯えていることなんて露知らずの笑顔で、中島和希は言葉を続けた。
「…ご存知とは思いましたが、焼けてしまいましたよ、ええ」
そう言って、中島和希は、背後の廃墟を振り仰いだ。どこかで、カラスが、ガァガァと鳴き声を上げていた。
「老朽でのガス爆発とは、ぬかりました。僕も間一髪、トイレに行っていたから脱出出来たようなモノで。パソコンもスマホも吹っ飛んでしまったんです」
中のバックアップもね…。
そう彼は言って、一歩近寄ってくる。
私は、ぬかった、と思った。
でも膝は恐怖に支配されていて、もう動くことは出来なかった。その眼に射すくめられて、呼吸が止まりそうになる。先輩とはまた別の意味―――恐怖で。
中島君は、その笑っているように見える瞳を、薄く上げて、サディスティックな笑みを浮かべていた。
「クラウドコンピュータなどにバックアップを取っておけば良かったのですが、流出の危険もありますから控えていたら、このザマです。貴女はそのことを考えたから、此処に来たんでしょう?」
そう、それを知っていたら。
この彼の持つ『データ』が全て消えていると知ったならば、私は絶対に、此処に来ることは無かったのに、それを考えたから―――。
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