95人が本棚に入れています
本棚に追加
先輩にお姫様抱っこされたまま、陽が落ちた狭霧原の田舎道。
田舎の農道とはいえ、他に誰かいやしないかと心配にもなるけれど―――もういいやって気分にもなりかけてきた。
気分が落ち着いたのは、一時間もしたくらいだろうか。
先輩も、あえて、回り道とかをしてくれているらしかった。
改めて恥ずかしくなってくるけれど―――でも、言わなくちゃいけないことが、一杯あった。
「あのっ、先輩…」
「ん?」
「ありがとう、ございます」
それだけを言う。先輩は、こくりと頷くと、
「…ごめん」
そう、謝ってきて。私はちょっとドキリとする。本当に間近で、先輩の顔は、申し訳なさそうな、苦しそうなものだった。
「…あんなことになっているなんて、知らなくてさ」
「…先輩」
「今回、助けられなかったらって考えると」
それだけでぞっとする、と先輩は言った。
最初のコメントを投稿しよう!