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「その通りです!この様な儀式はやる意味ない!」
陰の継承者の一言で、私を含めた周囲の人達は一気に静まった。
多分、前代未聞の事態だろう。陰と陽の継承者の為に用意された儀式なのに、それを本人達が否定するのだから。
「えっと、お二方?何をおっしゃり…」
「奇遇ですね、フィナ様。…いや、太陽の民の王女様。俺も思ってましたよ。…あなたがワイロで陽の継承者になったんじゃないかどうかを。」
「…は?ワイロですって?」
その男の言葉に私は理解出来ず、私は怒りを露わにしながら質問した。
「さっき努力がどうとか言ってたけど、俺から言えばあんたみたいな王女様が一番その言葉が似合わないですよ?あんたこそ、俺に見合った実力持ってんのかよ?」
私の中で何かが切れた音がした。
私は陽の力で時間を少し遅くさせると、鞘から剣を一瞬で抜き、陰の継承者の首元で剣を寸止めした。
「口には気をつけなさい。少なくとも、あんた以上の力は持ってるわ。」
「それは、どうですかね?」
「えっ…」
するとどういうわけか背後には、陰の継承者の分身体が私の首元に向けて剣を向けていた。
「どう…して…?」
「あんたが剣を抜く前に、こっちはあらかじめ予測してあんたに幻覚を見せたんだよ。どう?これ以上やるなら俺は手加減なんてしないよ?」
陰の継承者は目で圧をかけて私を睨んだ。
「…なーんてね!そんな怖い顔しないで下さい。」
すると今度は、さっきまでとは違い無邪気な笑顔で私を見た。
こいつ、一体何を考えてるの?
私にはこの男の実態がよく分からなかった。
「俺達のどっちが努力したとかしてないとか、そんな事いちいち気にしてたら、いくら力を持ってても誰もあなたについて来てくれませんよ?」
私は一度気持ちを元に戻して、周りを見回した。
さっきまでの言動と今までの態度。自分基準での判断や相手に対して見下した言い方などによって、私を見る周囲の目はとても冷たく感じた。
「強さに取り憑かれてしまったら、人は終わりです。そうならない様に、俺とフィナさんは互いの力を認めていつまでも仲良くするべきです!」
そう言って、陰の継承者は再び手を前に出してきた。
多分、この人はさっきまでの無愛想な態度は私の心境を察したからなのかな?
今のこの人の顔は、話しかけやすそうな優しい顔をしてる。
ひ弱そうに見える分、どこか安心できるその笑顔に、私はつい手を前に出してしまう。
そして、私と陰の継承者は、友好を深める為の握手を交わした。
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