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「分かった。だが少し待ってくれ。」
「承知しました。」
シドがそう言うと案内役の魔導兵は指示通り扉前で待ってくれた。
そしてフィナに向けて言った。
「フィナ。僕もその通りだと思ってる。だけど、国王が優しくてもこの国が絶対王政である限り王には逆らえない。これが現実なんだ。」
「…そうね。私もシドもそれを承知で魔導兵になったんだものね。」
フィナはそう言われて視線を下に向けた。
「絶対王政。王が間違えた道を歩んだ時に、正しい道を言える人達がいたらこんな事にならないのにね。」
「そうだな。…じゃあ、僕は今からハイドに呼ばれたから行ってくるよ。…あと、フィナ。」
振り返ったシドはいきなりフィナの手を握って言った。
「僕は君とならこの国、いや世界を良い方向に変えられると思ってる!今は力が無くても、きっと。…こうして僕らが出会ったのは陰陽魔術だけじゃない!運命だと思ってる!」
「…!?はっ?…」
びっくりしたフィナは顔を赤らめてびっくりしていたが、シドはすぐに手を離して扉を開けた。
出たシドはすぐ扉を閉めてから一度深呼吸をする。
「すぅー、はぁー…。」
「…もう、良いのですか?」
「え?あ、あぁ。大丈夫だ。…い、行きましょう。」
扉の外から丸聞こえだったのか、今の話を聞いてニヤニヤしていた。
それに対して何事もなかったかの様に振る舞い、案内人と一緒にハイドの元へ向かった。
部屋に残されたフィナはしばらく呆然としていたが、自分の手を見て先ほどの事を思い出していた。
「今の国を、良い方向に…か。…今から戦争しなければいけない立場なのに、そんな先の幸せを願って良いのかな?」
こちらも国として戦わなければならない立場。
しかし、それで命を奪えばいくら抑止力と言ってもただの殺人者だ。
今から自分がもしかすると大量殺人者になるかもしれない不安で一杯で、とても自分の幸せな未来を想像出来なかった。
でも、今だけはこの感情に浸らせて欲しい。
この、穏やかな気持ち…何だろう。とても無性にシドに会いたくなる様な感情は。
するとフィナも案内役の魔導兵に呼ばれ、感情に浸る間も無くその部屋を急いで退出した。
そして、この日はこの部屋に戻る事がなかった為、シドにも会わず1日を終えた。
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