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殲滅戦から1ヶ月が経った。
シドのいない魔導兵としての仕事が続き、思いたく無いけどシドのいない生活に慣れ始めた頃だった。
その日私は非番であり、久しぶりに外出する事にした。
特に予定は無かったけど、どうしてもシドやあの時の王と一緒に行った北区の市場を思い出し、ふと行きたくなったのだ。
そして自然と行き着いた所は王が初めて私達に奢ってくれたジェラートのお店だった。
「いらっしゃい!…お、久しぶりだなフィナ!」
相変わらず大将気質の店主は私を見るなり、私の所へ来て笑顔で迎えてくれた。
「大きくなって!今日は仕事は休みなのか?」
「はい。…偶々、ここに立ち寄っただけなので。」
笑顔でサラッと嘘をついたつもりだけど、上手く笑顔を作れてる気がしない。
この前の殲滅戦で亡くなった魔導兵達の訃報は国全体に伝わってる筈だし、シドが亡くなった事は店主も知ってるはず。
「ごめんなさい、ちょっと懐かしくて立ち寄っただけだから。それじゃ、また来ますね…」
シドの事に対して触れて欲しく無い為、私はすぐに店内から出ようとしたら店主に引き止められて。
「まあそう言わずに、今日は俺の奢りだからさ!遠慮なくこっち座って待ってな!」
断る暇もなく、私は店主に引っ張られ何故か人があまり座ってないテーブル席まで連れて行かれた。
そして店主がこっちに来ると何故か頼んでも無いジェラートを私に差し出した。
「ほらよ、俺の奢りだ!今までに無い画期的なやつを考えてみたんだ!な、美味そうだろ?」
差し出されたジェラートはピンクのストロベリー味とチョコレート味、その両方が1つのカップに一度に盛られていた。
この国にはジェラートの店は数店舗あっても、2つ同時にジェラートを乗せた物は売っていなかった。
「凄い、2つの種類のジェラートが1度に食べられるなんて。」
「そうだ!今ある種類の2つまで自由に乗せれるんだ!今度店に出そうとしてるんだが、今日はお試しで出してみた!」
「このチョコってやつ、よくシドが食べてたから気になってたけど、これも美味しいね!…あれ?もしかしてこれって…」
よく見たらこのストロベリーって私と同じ髪色?それにシドがよく食べるチョコ。
それに気づき始めた時に店主が口を開き。
「ストロベリーとチョコってのはやっぱり相性が良いんだよな!美味いだろ?…でもやっぱり、あの時初めてジェラート食べたお前らの笑顔には敵わねえけどな。」
「私たち?」
「そうだ、お前とシドはこのジェラートと一緒だ。お前ら2人はこれみたいに相性が良かったから、それを参考に2つ盛りのジェラートを作ってみた。」
ストロベリーとチョコ。確かに私の髪もこのストロベリーと一緒で、チョコはシドが好きな物だから連想しやすい。
だからこそ、余計にこの店には思い入れがある分悲しい気持ちが強くなる。
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