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走っていく中で目にする光景。
普段からよく見かけたり話したりする人達がまるで人形の様に動かなくなっている姿が次々と目に止まる。
道を歩く人。親子で手を繋いだままの人。店の中にいる人。
全ての人間が何かをしようとした状態で固まり、動かなくなっていた。
そしてようやく王宮の広間に辿り着いた。
そこには、膝を地面に着かせて息を切らした者がいた。
そいつの名は、殲滅戦で一度見かけた黒魔道士。
「お前は…ネル・ナイトフォース。」
「ハァ、ハァ、…これは、(陽)の継承者ではないですか。」
ネル・ナイトフォース。何故この男がこの国に?
いつから居たのか?ここで何をしてたのか?
そんな事を問わなくても、これだけ分かれば良い。
こいつがこの国の人達に何か魔法を掛け、そして動けなくした。
この事実は変わらない。そして、何故か息を切らして明らかに疲労している。
真意は問わない。今ここでこいつは殺すべきだ!
フィナは凄まじい速さの縮地で距離を詰め、(陽)の魔力で鞘に納めていた剣を一瞬で分離させて手に持ち替えた。
あまりの速さにフィナの近くにいた魔導兵達は気付くのに時間が掛かり、一瞬で10m程離れてたネルの間合いまで近づいていた。
しかし手に剣が持ち替えられた瞬間、剣を持つ右手を何者かに掴まれ止められた。
その者は、シルフ王の側近である宰相のハイドであった。
「何故止める?こいつが何をやったか、分かってるのか!?」
フィナは掴まれた右手を解こうとするが、ビクともしない。
ハイドは冷たい目でフィナを見下ろしながら言った。
「分をわきまえろ、魔導兵のフィナ。個人の感情でこの男に手を出す事は許さん。立ち去るがいい。」
初めてこの男と対面して話したが、冷たい眼光に加え感情を感じさせない口調。
たった一言二言しか口にしてないのに、この人間からは他者を思いやるという人間らしい感情が感じ取れない。
こんな惨状になってる国に対して怒りも悲しみも感じていない。
こいつにとって、国や人々がどうなろうと関係ないのだろう。
フィナはこの一言だけでそれが感じ取れたのだった。
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