刻んだ言葉

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刻んだ言葉

「あー。懐かしーーーい。でも、もうこれで見納めなんだよね」  歓喜の声を上げたのも束の間。すぐに落胆を顔に浮かべ、鶴岡恭子は室内を眺めた。  四年前まで通っていた小学校は、少子化や都市部過疎化の影響でどんどん通う者が少なくなり、今年の卒業生を見送って廃校という運びになった。  思い出の場所がなくなる。それを聞いたらいても立ってもいられなくなって、恭子は小学生時代の少ないクラスメイトに連絡を入れていた。 「集まれるコだけでいいから集まろうよ」  誘いに応じてくれたのは十ニ人中八人。後の四人も来たがっていたが、どうしても都合が合わず、結局この人数で集った。  許可はもうもらっていたから、八人で校舎に入り、あちこちを見て回った。 「机とか、こんな小さかったっけ?」 「使ってたの、小学生の時だもん。今と比べたらそりゃ小さいよ」  懐かしみながら、めいめいに当時座っていた席に座る。 「あ」  声を上げたのは亀井博樹だった。 「どうした?」 「ん? 何でもない。椅子に座ったらすっげぇ軋んだから、壊れたのかと思っただけ」  そう告げる亀井に、誰もが何だと興味をなくす。でも恭子は見逃さなかった。  今、亀井は椅子に座ってなんかなかった。  何かを隠すために咄嗟についた嘘。何を隠しているのか…気になるのは自然だろう。  わいわいと騒ぎながら別の教室へ移動する。その群れの一番後ろにいた恭子は、皆にばれぬよう、今までいた教室に引き返した。  カマ山が使っていた席に駆け寄り、机を見つめる。  何もない。ごく普通の机だ。椅子にもおかしな部分はない。  やっぱりさっきの声は、座っていないけれど、もたれて椅子が軋んだから上げたとか、そういうことだったのだろうか。  そう納得するのは簡単だけど、もう少し探ってみたくて、恭子は机の側にしゃがみ込んだ。 「鶴岡! 待った!」  制止の声に顔を上げると、そこに亀井の姿があった。そのちょっと必死な顔が、恭子の『もしかして』を確信に替える。  謎が机の下にある。亀井は見られたくないようだけれど…気になりすぎて、見ないなんて選択は無理。
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