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「スポットライト演出は二台少ない台数で作り上げる方針に、二週間前リハの前に変えてあった。そして前日リハでは、その二台使わなかった前回の演出は『使えない』として、壊れたライトを見せて、各部に説明して、一部の演出が不能になったことを伝えたんです………そして一部の部活にだけ、その真相を内々に教えた」
「では二週間前リハの前に壊れたとかいう二台のスポットライトはどうしていたんだろうな。ライトが点灯していないのに、誰も気付かなかったとでも言うのか?」
緩やかなウェーブを帯びたロングヘアを、小指でかきあげる生徒会長。
「取り外して舞台袖に隠したんですよね。穂高生徒会長」
「分からんな。まるで見て来たかのように言う」
「二週間前リハの前に取り外して隠し、配置を直して前日リハ前に元に戻したんですよ………絶対にその二台が隠されたと悟られないように」
「へえ。急にそんな大掛かりな事が出来たとでも?」
「あの放送部の部長さんがいらっしゃらなかったからこそ、出来たんじゃないですか?」
穂高先輩が分厚い唇で囁く。
身体の芯が、ぞくぞくするような甘い声が耳を弄ぶ。
「君は、実に人を良く見ている。
あの小五月蝿(こうるさ)い拘(こだわ)り屋がいないだけで、かなり事は楽に進む。その通りだ。
アイツは自分自身の主義主張が、私とぶつかる数少ない人間の一人だからな。
けれども、証拠も証言もないのだよ、少年」
「………ないわけではありません」
威圧感に押しつぶされそうだが、やっとのことで言い返した。
「先程も言いましたが、生徒会は壊れたのが当日前日リハの前となるよう、二台の壊れたライトを隠しておき、リハーサル前のライトの調整だとか言って、放送部と一緒にライトの設置を行いました。そうすればライトの設置や配置場所の変更などをしていても怪しまれずに済みますからね。それに、そこまでやってしまえば、あの放送部の部長も従わないわけにはいかない。
しかしそこで唯一の失敗を犯した。壊れているスポットライト二台だけ、設置する向きがおざなりになってしまったんです。使わないことを予見していて、しかも時間がなかったからだと思います。
こうして、あるべきスポットライトの向きよりも、その壊れている二台は『上向き気味』に設置されてしまったんです」
「あ………」
千年が思わず声を漏らした。
やっと気付いたか。
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