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「おいおい。八百比丘尼って、人魚の肉を口にして八百歳まで生きたっていう尼さんだろ?」
不老長寿伝説の女、八百比丘尼。
彼女は死なずに何世紀も放浪の旅を続けた。
最後には入定し、若狭で即身仏になったとされている。
「初代の八百比丘尼は千年以上前の人物です。彼女を初代として彼女の血を受けた人間を、私の一族は代々、内々で『何代目の八百比丘尼』と呼び倣わしてきました。
貴方様もご存知の八百比丘尼伝説には隠された伝説がありました。
これは八百比丘尼のその子孫たちの物語です。
当初の子ども世代こそ時として極端に長生きな者もおりましたが、八百比丘尼の子孫たちは世代を経るごとに、普通と変わらぬ百年にも満たない寿命の子どもが増えていったそうです。
それでも今の世代が何世代目なのかを確認して親族間で連絡を取り合い、『何代目の八百比丘尼』がいるかを全家族で共有し続けたのは何故だと思いますか?」
問うて問われる千年の過去語り。
その真相は不幸の千里眼を持つ俺には、ついぞ掴めなかった。
「………家族の絆が強いから?」
「お見事、不正解。
八百比丘尼の子孫には、次第に不可解な体質の者が生まれるようになっていったそうです。時として普通の人よりも圧倒的に短命で死んでいく者も増え、路頭に迷う家族を増やしていったために自ずと親族の互助会制度を必要としたんです。
栄華を極めた八百比丘尼の一族も、今や私の家族を含めて十三家族だけになってしまいました。
滅びの一族なんですよ、私って」
聞くのが怖い。
でもここでそう言うからには、これは聞くべき質問なのだろう。
「千年は短命なのか………?」
「さあ。どうでしょうね。
その可能性もありますが人並みの寿命になるかもしれません。あるいは希有な先祖返りであればとても長命かもしれません。分からないんです。私にも。誰にも」
廊下の窓を開ける千年。
「ただし、明確にお答えが出来ることもあります」
桜の花の腐ったような、冷たい春風が後れ毛を攫う。
「私の身体は………人間の食べ物を栄養には出来ないんです」
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