謎×壱『挨拶の盗人』

39/40
前へ
/133ページ
次へ
「おま………」 「凄い反応ですね。心配が顔に滲み出てますよ?」 「当然だろ!」  青ざめる俺をよそに、千年は事も無げに言うのだった。  ご馳走のお品書きを読み上げる、嬉々たる声で。 「幼い頃から『人の不幸』だけが私の味覚と空腹を満たしてきました。  私の血となり肉となるのは、『人の不幸』だけ。  人の不幸が私の主食ですから、それがなくなれば泡となって消えてしまいます。  だから、人魚姫のお話はここでおしまいなんです。  幸せになりたい貴方様と、忌まれるべき私は、相容れません」  問題は難問、時間制限付き。  質問は三回まで。  間違えたら左目を寄越せ、四肢を寄越せ。  そんな、人魚姫の謎掛け。  目を抉ってでも、俺を避けようとした。  告白を断れないけど、断らなくてはいけない。  千年の切ない心が、やっとこの左目にも見えた。 「人の不幸を集めるのは、俺の専売特許だ」 「………」 「俺に集まる不幸は、全部、幸せにする。  そうしたいと望んでいるだけだ。  不幸が集まるのは、もう諦めている。  寧ろ、この世のありとあらゆる不幸を集めてみたいくらいだ。  だから、その、あれだ。  萬には俺を手伝って貰いたい」 「手伝う?」 「元・神様の罪滅ぼしを、一緒に生きてくれないか?」  右手をそっと差し出した。  千年は塩っぱい水の溜まった瞳で、真っ直ぐに俺を見据えた。 「あ、あの頃も今もお慕い申しておりました。  元神様には望まなくとも不幸が集いますもの。  ………貴方様が死ぬまで、私は『不幸』を食べ続けて差し上げます」  まるで、遊びに参加すると表明する子どものように。  千年は両手で、俺の右手を怖ず怖ずと握った。  大吉、大吉。 「宜しくな」 「はい。これからも、宜しくお願いします。  一人につき三回までの質問だけで、不幸を見通して下さいね」 「分かった!  ……え?」  思わず何も考えずに返事をしてしまった。  え、と思った時には、千年は手を離していた。 「貴方様。入部届けはまだ出していませんね?」 「ちょ、さっきの、三回って」
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加