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「おま………」
「凄い反応ですね。心配が顔に滲み出てますよ?」
「当然だろ!」
青ざめる俺をよそに、千年は事も無げに言うのだった。
ご馳走のお品書きを読み上げる、嬉々たる声で。
「幼い頃から『人の不幸』だけが私の味覚と空腹を満たしてきました。
私の血となり肉となるのは、『人の不幸』だけ。
人の不幸が私の主食ですから、それがなくなれば泡となって消えてしまいます。
だから、人魚姫のお話はここでおしまいなんです。
幸せになりたい貴方様と、忌まれるべき私は、相容れません」
問題は難問、時間制限付き。
質問は三回まで。
間違えたら左目を寄越せ、四肢を寄越せ。
そんな、人魚姫の謎掛け。
目を抉ってでも、俺を避けようとした。
告白を断れないけど、断らなくてはいけない。
千年の切ない心が、やっとこの左目にも見えた。
「人の不幸を集めるのは、俺の専売特許だ」
「………」
「俺に集まる不幸は、全部、幸せにする。
そうしたいと望んでいるだけだ。
不幸が集まるのは、もう諦めている。
寧ろ、この世のありとあらゆる不幸を集めてみたいくらいだ。
だから、その、あれだ。
萬には俺を手伝って貰いたい」
「手伝う?」
「元・神様の罪滅ぼしを、一緒に生きてくれないか?」
右手をそっと差し出した。
千年は塩っぱい水の溜まった瞳で、真っ直ぐに俺を見据えた。
「あ、あの頃も今もお慕い申しておりました。
元神様には望まなくとも不幸が集いますもの。
………貴方様が死ぬまで、私は『不幸』を食べ続けて差し上げます」
まるで、遊びに参加すると表明する子どものように。
千年は両手で、俺の右手を怖ず怖ずと握った。
大吉、大吉。
「宜しくな」
「はい。これからも、宜しくお願いします。
一人につき三回までの質問だけで、不幸を見通して下さいね」
「分かった!
……え?」
思わず何も考えずに返事をしてしまった。
え、と思った時には、千年は手を離していた。
「貴方様。入部届けはまだ出していませんね?」
「ちょ、さっきの、三回って」
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