謎×弐『亡霊探しの放課後』

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「秘密倶楽部の活動をするに当たって、部員を確保せねばなりません」 「部員、か………」 「大神様の不幸をお集めするお力を、どうぞお示し下さいませ」  恭しく頭を垂れる。 「『元』だ。元・神であって、フツーの生活を面白おかしく過ごしたがっている」 「フツーの生活を面白おかしく過ごしたがっているのに、私とお喋りするんですね?」  人の不幸を、甘く、舐めとる猫の目が笑う。 「可愛い女子とお喋りするのが全男子高校生の夢だろ」 「現実から目を逸らした妄想、とでも訳すべきでしょうか」 「相互不理解だ。俺は現実的に女子とお近付きになりたいんだ」 「それ、本当に全男子の夢なのか、冷静に考えたことはありますか?」 「俺は至って冷静だ」 「現実と非現実。どちらが理想に近いかを考えれば、答えは一つです。不服ではありますが、こんな欲望だらけの現実の女子よりも、美化されて完璧な状態になった妄想の女の子の方が、理想的な相手………私の敗北を認めざるを得ません」 「誰に負けたんだ」 「ですから、自ずと『非現実美少女とフツーで面白おかしい夢のような毎日を過ごしたい』が全男子高校生の夢………その模範解答となるのではありませんか?」 「現実の苦さを含めて、フツーの青春って呼ぶんだぜ!」  きょとん。 「………陳腐で想像通りのしょっぱくて青臭いサラダのような味の『不幸』ですね」 「そうかい。お粗末様」  柄にあわない言葉選びで、失敗した不幸を塩っぱそうに見詰める千年。  味わって頂けたのならば、その結果のみ、大吉として受け取っておこう。 「倶楽部活動としての体裁がなければ、倶楽部活動は存続不可だとさ」 「それは困りました。人集めをしなければなりませんね」 「人がそう簡単に集まるのかね」 「不幸を集めるのなら、不幸な人も集まりますよ」  不幸を集める、神通力家系の俺。  不幸を食べなければ生きられない、人魚家系の千年。  俺は差し詰め『おさんどん』か。 「集まるったって、部室もないんだぞ。  何処に誰が何をもってして集まるんだ」  施錠された屋上に続く扉の前、二畳くらいの踊り場にハンカチを敷いて、ちょこんと体育座りしている千年が拳を握りしめた。 「部室もクラウド化の時代です」  カラスの鳴き声。  運動部員のかけ声。  新入部員が奏でる拙い楽器の音色。  平和だ。
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