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「ねーねー。お取り込み中の所ー悪いんだけどさー」
背丈の小さい男子生徒が、ちょこん、と階段の段上に立っていた。
隣の席に座っていたチビだ。
名前が思い出せない。
身長が百四十センチでヘアピンをしているので、『ヘアピンチビ』としてしか記憶していない。
爆音のトランペットが演奏を止める。
途端、静かになる屋上扉前階段踊り場。
「知り合いですか?」
紹介してしてと言わんばかりに、目を輝かせるヘアピンチビ。
こいつが子犬なら、尻尾を振っているのだろう。
「ええと、誰だっけ?」
「明 萌(あきら めぐみ)だよ! 無神君!」
すげえ名前だな。
イメージが強過ぎるために女子の名前と勘違いしてた。
「出欠を取られていても黙っているからだ」
「ひどいっちゃ【ってば】!」
………ちゃ?
ラムちゃん?
「何の用だ?」
「もー。用がなくちゃ話し掛けちゃいけないのー?
部活動を見に行くって昨日約束していたんだよー!
覚えてないのかー!」
「ああ………忘れていた」
「ひど!」
「それじゃあ用事は終わったな」
「終わってないよー!」
子犬のようにぴょんぴょん、と撥ねるヘアピンチビ。
テンションが一々無駄にうるさい。
甲高い声を目一杯に張り上げるので、あのトランペットよりも耳につく。
一人演劇部でも創設しようとでも言うのか。
「話はてーげ【たくさん】聞かせて貰った!」
「て、てーげ?」
「貴方様。明さんは奄美の人では?」
「そうなのか?」
ヘアピンチビが千年の言葉に食い付いた。
「あげぇー【おおう】!
たまがりどー【びっくりした】!
やー【君】は島口、分かる人なのかなのかは四十九日なの?」
「しれっと奄美の方言に自己流の語尾を混ぜるな」
「七日七日は四十九日で間違いありません。奄美の方言については、言っておいて申し訳ありません、中途半端な知識として知っているだけです」
「それでも嬉しいっちゃー!
ありがっさまー!【ありがとう】」
入学式の日、郷里が何処かを問われた理由はその出自にあったのか。
「でねー、ちゃー【超】素晴らしいわん【ぼく】の入部届けがあるんだがねっ!」
「わん?」
ヘアピンチビは動物めいた動きで入部届けを取り出した。
入部届には確かに『秘密倶楽部』という怪しげな名称が書かれている。
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