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……実はここにまだ、更にもう1人、邪魔な男が居る。
蛍と年が近く、彼よりよほど蛍と歩けば似合いそうなそんな男が。
このマンションは、金持ち向けという事で24時間常駐のコンシェルジュをはじめ、付随するサービスが無数についている。
無論、そのために毎月相場の数倍の管理費を支払わされている訳だが。
地下階に、プールを備えたジムがあり、これは住人であれば使い放題の施設だ。ここを統べるジムチーフが、実は、蛍を狙っている。
どういう作戦を秘めてか、いまだ蛍にその気持ちを告白してはいないようであるが。この男、彼にはもうすでに真正面から蛍を手放せと吠えてみせたことがある。
一見、礼儀正しそうに見えて、たいした鉄の心臓の持ち主だ。
蛍の誕生日戦線、早雲に気をとられて、すっかり警戒がお留守になっていたが彼の脇をかすめて、この男が先に動いた。
この日は蛍は朝から出かけていた。
帰ってきたのは、ぎりぎり夕食作りに間に合う時間だ。
里帰りのために、付近への土産を買いに出ていたのである。
だから、いつもは汚れても平気な軽装でいることが多い彼女が、余所行きの、ちょっと可愛らしい服装のままだ。
彼にもまた、お土産だと言って買ってきたデパ地下のとりどりの惣菜を盛りなおして出して来る。
いっそ夕飯が不要に思える量だが、どれもなかなか美味そうだ。蛍が選んできたのだから、いずれもハズレはない彼の好みの品ばかりなのだろう。
……それにしても。
彼女が動くたび、ダイニングに柔らかなスカートの裾がひらりと舞った。
ちらちら覗く膝がしらの様や、最近はやりらしい細かい模様の入ったストッキングの脚も、華やかで良い。
いつも彼女が磨き上げているから、もはや掃除など当分しなくても十分にもうぴかぴかの家の中である。
ならば、いつもそっけないジーンズやシャツだけでなく、もう少しそんな女らしい恰好でいたらいいのに、と、それを見るにつけても思う。
わざわざ「花火」たちを棚から出して言う事でもなかろう。
ただ胸の内で呟くにとどめる。
照れ屋の彼女である。
むしろ言ったら最後、慌てて着替えに行きかねない。
ここはわざと黙っておこうと思った。
ちょっとした目の保養だ。
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