第1章

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 全て削除され、データの辻褄が合わなくなっている箇所を、更に個人のデータまで遡り検索してみる。個人のプライベートな記録、日記だったり、イベントの参加者記録、出勤記録など、様々な分野の記録を探してみた。  そして、個人の日記にその記載があった。ガオンの研究所に、女性の天然体らしき人物が配属されたと。優秀な人材で、有毒ガスの発生も予告していた。日記では、女性が国に対し、危険性を訴え、警察に拘束されてしまった事実も記載されていた。熱血な面もあったらしい。 「ミラレスの天然体、しかも…成人女性」  そんな存在があったなどと、政宗は聞いた事が無かった。  微かな正式記録では、ミラレス崩壊時、十八歳であった女性が、天然体であったとされる。ガオンで研究員となり、その後行方不明になっていた。 「亡くなった立花氏と、どんな関係であったのだ?」  それは茶屋町が調べていた。女性は、若くして主任研究員となり、二千翔の父親の上司になっていた。又二つの骨の位置も分かり、足の小指から取ったものであった。 「ヒカリ、この遺体、どこに在るかな?」  ヒカリ、政宗の肩に生息している液体の名称であった。ヒカリは、小さな手の形態になると、端末の操作を行った。  ヒカリは人工生命体で、ミラレスのデータを追いかける性質を持っていた。ミラレス崩壊時に、失われた筈の莫大な量の実験データは、ミラレスの天然体の女性の脳にだけ発現する。その発現条件は、死に直面した場合であった。 「ガオンに冷凍保存されている」  ヒカリは、ガオンでまだ稼働しているシステムに入り込み、稼働部分の情報を得た。女性は有毒ガスで死亡し、遺体は他の星に移せないが、冷凍保存されていた。 「ヒカリ、冷凍のままで遺体に通信できるのか?」  ヒカリは、無理と端末から返答してきた。少なくとも脳の部分を解凍しないと、通信はできないらしい。  ミラレスの女性、政宗は自宅の部屋でもその素性を追いかけていた。彼女の存在は消されていても、彼女が設計した図面が大量に残っていた。  政宗は三階に上ると、窓を開ける。その中央に胡坐をかいて、一枚ずつ図面のデータを空中に投影してみた。  四方が窓だけの部屋の空中に、無数の図面が広がってゆく。幾重にも重なり、緻密な図面が折り重なる。  その図面は、永久時計であったり、ユカラにも搭載されている、千年システムのパーツであったりした。
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