第1章

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「もう少し、予算を取って整えてください」 「考えておく」  コードを伸ばすと、そっと胎児の脳に繋げる。母親を探す、迷子の夢のようだった。寒くて暗い。政宗が抱えると、安心したのか、明るい光が射しこんでいた。 「君の名前は、ヒカリ。今、見ている光のことだよ」  胎児の顔に笑みが浮かんでいた。 「データは逆から読み込みます。エンドから読み込みです」  逆走でデータの保存を開始する。今までのデータと、重複までいくことができたら、それでよい。  もう悪夢は見なくてもいい。ヒカリは産まれて、母は生きている。この世界で、ヒカリは小さな存在だったが、残したものはとても大きかった。政宗は、ヒカリのおかげで、自分の父親が何を研究し、何を自分に残したのか知ることができた。重力無効は、政宗の父親が、政宗に残したものであった。  政宗が、ヒカリに話しかけていると、脳の波形が弱まってきた。 「データ、読み込みましたか?」 「まだだ」  政宗が、そっとヒカリの脳に手を当てると、やや波形が強くなった。電力不足であるのだろう。 「ブーヨ、ちょっとこっちに来てくれ」  ブーヨと呼ばれた半透明の人造人間は、自分の事なのかと政宗を凝視していた。政宗が頷くと、ブーヨがのろのろと這ってきていた。 「ブーヨ、この胎児はヒカリだ。取り込んで欲しい。記憶ごとな」  ブーヨは触手を伸ばし、胎児にそっと触れると、首を傾げた。 「遺伝子を融合させて欲しい。この子の脳は、多分天才級であったが、崩壊している。でもブーヨの復元能力ならば、脳を復元し、記憶を別に保管することが出来るだろう」  ブーヨは、政宗の父親の思考が入っている。 「きょうだい」  ブーヨは、政宗を兄弟と認識したようで、やたら親しく触れてくる。 「何故、兄弟…」  人造人間が全て、政宗を兄弟と思うのだろうか。それは困る気もした。  政宗は、そっと胎児を抱えると、ブーヨに差し出してみた。 「ブーヨ。できるだろ?」  政宗の笑顔で、ブーヨは少し光ってみせた。 「まかせろ」  ブーヨが胎児を受け取ると、中で胎児が消えてしまった。 「貴様!」  怒る荒川を制止すると、政宗はブーヨの変化を待つ。 「少し黙っていろ!」  恐怖の魔人の扱いをされている荒川を、怒鳴るなどと、荒川の部下は怖れて政宗を見ていた。だが政宗は、荒川を見ようともしない。政宗の興味の全ては、ブーヨに行っていた。
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