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「宝来が殴る気持ちが分かりますよ…」
政宗は、殴られた頬を押さえた。やっと腫れが引いたのだ、又殴られたくはない。
「まった、まった、茶屋町。途中で拉致されたのだ、俺が突っ込んでいったわけではない」
多少、自ら行ったかもしれない。
玄関の時計が、時間を映していた。かなりの時間が経過していた。
「連絡は取れなかったかもしれませんが、救けも呼ばなかったですよね?」
そういえば、救けは呼んでいなかった。自分で切り抜けられると考えたわけではないが、危険な場所に、誰も近寄らせたくなかった。
「…危険な人物だったからね。巻き込みたくなかった」
本音であった。
そこで、茶屋町に殴られそうになり、政宗は本気で逃げた。
「…政宗、帰してくれたからいいですが、殺されていた可能性の方が高かった」
政宗は屋根の上まで、逃げて茶屋町を見下ろしていた。
「分かっている」
茶屋町が屋根まで追ってきた。政宗は、茶屋町の拳を手で受け止めた。
「分かっていません。天然体を失った、ミラレスの実験体は生きられませんよ…」
茶屋町は、親友だ。きっと、時宗と真誓を育てて生きる。でも、茶屋町の涙は、殴られるよりも痛かった。
「いつもありがとう、茶屋町…」
手を握り締めると、政宗は深く頭を下げた。
「父ちゃん!帰ってきたの?」
声に気が付いた時宗が、走って出てきたが、屋根の上に居るとは気付かない。
「父ちゃん、どこ?」
時宗も泣きながら、政宗を探していた。
「時宗、上だ」
政宗は、屋根から飛び降りると、時宗を抱きしめた。
「ごめん、心配かけたみたいだね…」
時宗の涙も、心に染みる。そこに詩織がやってくると、平然と政宗を殴っていた。
「詩織…そこで、殴る?!」
宝来が殴ったのとは、反対の方であった。
「真誓と時宗を泣かした分です。私の分も殴られたいですか?政宗君」
「イヤです」
詩織は、案外怖かった。
真誓も抱き上げると、頬擦りしてみた。今日食べたリンゴと、ミルクの匂いなのだろうか、真誓から匂ってきた。
「父ちゃん。黙ってどこかに行ったりしないでね」
時宗も、政宗が誘拐され易いことは理解していた。政宗が子供と同じで、興味があるとふらふらと行ってしまうことも承知している。
「はい、そうします」
政宗の言葉は、全く当てにならない。
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