第1章

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 時宗が、宝来に加勢していた。時宗は、発信器を政宗に付けようとした。だから、政宗は怒ったのだ。 「俺に、発信器を付けたいの?」  宝来と、時宗が同時に頷いていた。 「特別の通信方法を教えるから、それで、許して」  政宗が、空の手のひらを見せる。 「おいで、ヒカリ」  政宗の手に、光が集まると、球体を作る。やがて、光の塊は水の塊になった。 「この子は、ヒカリ。人工生命体で、通信と記憶ができる。ヒカリ、こっちが息子の時宗で、そっちのが本田 宝来。覚えてね」  ヒカリとの通信方法を教えると、ヒカリに二人との接続を許可する。 「これで、連絡がとれる」  ヒカリは、政宗の周囲に居る。液体になったり、気体になったり、個体になったりしながらも、政宗の傍を離れない。  宝来と時宗は、ヒカリと試しに通信しながら、地球軍でのあれこれまで聞き出していた。 「政宗、何度怒っても、全然懲りないな…又単身で突っ込んでいたのか」  単身の時に狙われたのだ。 「懲りているよ…」  宝来が拳を握ると、政宗も身構えていた。政宗と宝来のケンカは、年中行事のようなものであった。 「宝来さん、父ちゃんとケンカしたら、どっちが強いの?」 「ええ?」  唐突な時宗の質問に、宝来は暫し考え込んだ。 「五百三十二戦中、俺の勝利が三百三。引き分けが百五だ」 「何回…喧嘩しているの!」  宝来とはよく喧嘩をする。最近は、殴り合いはしなくなったが、昔は言葉よりも手が先であった。年中殴り合いになっていた。同じ年の少年同士だったので、不思議ではない。 「ああ、それは殴り合いの勝敗ね。喧嘩自体はその三倍はある。総合で行くと、俺の勝ちの方が多いよ」  口喧嘩もあるし、賭けで勝敗を決めることもある。殴り合いは、政宗の方が体力もないので、圧倒的に不利なのだ。 「三日に一回は喧嘩しているの?」  時宗は、驚いていた。 「いや、今は離れているからケンカしないだろう。昔は一日三回とかだよな…」  宝来がまじまじ言っていた。 「よくよく考えると、どうして離婚しなかったのかね」  喧嘩の時は、本気で怒っている。相手の顔も見たくない時が多い。 「えええ、俺は喧嘩はしても、離婚は考えたことがない。喧嘩しても別れなくていいから、安心して、本気で喧嘩できたというのか…」  そうだったのか、宝来は政宗に意地悪でもあった。でも、確かに結局は優しい。
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