第1章

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 何だか、政宗は宝来もかわいい生き物のように思えた。そう思うと、自然と笑顔になってくる。 「時宗、宝来の面倒を頼む。俺は、仕事」  時宗が、真剣に宝来にコーヒーを淹れていた。   『Nightmare』了 『Black Box』 第一章 時計  惑星MHZ28(通称オウランド)、各種企業の研究所と、学園から成り立つ星であった。  地下に鉱物資源が多いこの星は、住居可能部分が少ないが、豊かな暮らしをする者が多い。   そこでからくり屋を営む、成田 政宗(なりた まさむね)は、元軍人で、専門は機械工学。相棒の茶屋町 一樹(ちゃやまち かずき)も元軍人で、専門は通信であった。  からくり屋とは、再利用の進んだ社会での、弊害、前の持ち主の癖やセットが突然発生するフェイクゴーストに対応していた。  からくり屋は、住居地区の究極の外れに位置していた。住居部分の先は砂漠になっているので、政宗の家は、一歩出ると砂漠であった。砂漠では日光とも呼べる日差しが強く、長時間いることができない。  からくり屋は、元研究施設を買い取り、ガラスの壁に見える巨大ドームの中に建てられている。しかし、外部から見ると、からくり屋の建屋は見えず、ケースに入った森にしか見えない。  森を囲むのはガラスではなく、電磁場によるシールドと風によってできているが、セキュリティによりその強度は変化する。日差しのコントロールもあり、居住区にはなっている。  長時間、砂漠で生活するには、このドームが必需品であった。  他にからくり屋には、簡単な宇宙船の倉庫と整備小屋を、ドームの他に持っている。  からくり屋は辺鄙な場所に建てられていたので、移動手段は車かバイクとなる。隣家に行くとしても、乗り物が必要であった。営業する気があるのかと不思議に思うが、商売にはなっていた。  そこに、一般女性が訪ねてきていた。  からくり屋、軍人や研究所の職員、マニアにはうけているが、一般女性にはあまり馴染みがない。 「あの、これがフェイクゴーストと呼べるかは分かりません」  二十代前半の女性、ふわふわとした髪がゆれていた。美人というよりも、可愛いという感じの女性であった。  差し出されたのは、腕時計であった。 「あ、あの、ここにはガオンの時計もあると聞いて、もしかしたら何か分かるかもと思いました…」
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