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ガオンは茶屋町の故郷であった。今は、立入が禁止されている。
差し出された時計は、ガオン製であった。
「茶屋町のと、同じ型なのか…」
茶屋町が付けている時計も、ガオン製であるが、これは政宗が組立していた。純粋なガオン製とは言えない。
時計を手に持ってみると、思っていたよりも軽かった。しかも、時計は止まっている状態で、動く気配もない。
からくり屋のショップの部分は、何も無い部屋であった。店内には、かろうじて椅子と、小さな丸いテーブルがある。壁には、詩織のセンスで映像が流されていた。この壁に、時計を拡大して映してみた。かなり使い込まれているが、軽すぎる。
人形の姿のエリーがやってくると、女性にお茶を出していた。エリーは、人間ではなくプログラムで、店番をしている時もあるが、緑王号という宇宙船のシステムを担当する、補助装置でもあった。
「ありがとう」
女性が、お茶をおいしそうに飲んでいるので、エリーは安心して少し笑ったように見えた。基本、エリーは味見ができない。
「時計、開いてもいいですか?」
軽すぎるので、中身を確認したかった。こんなに軽いパーツを、ガオンは開発していたのだろうか。
「構いません」
女性は立花 二千翔(たちばな にちか)と名乗った。父親はガオンで整備工をしていたが、二千翔にはガオンの記憶はない。父親が無くなり、遺品として、いつも父が腕にはめていた時計を貰った。
しかしこの時計、動く気配はない。あちこち訪ねたが、ガオン製の時計の修理を請け負う店は無かった。
「ガオンの機械は、壊れないので、逆に修理を請け負う店などありませんでした」
確かに壊れない機械では、修理する商売は成り立たない。
政宗が時計のカバーを外すと、中身が無かった。
「中身がありません」
二千翔の父親は、決して動く事のない時計を毎日腕にはめていたことになる。
「そうなのですか…」
二千翔が、どのような父親だったのか少し語ってくれた。真面目な性格で、会社を休んで旅行に行くなどとも、無縁の人物であった。日々決まった時間に起き、同じバスで会社に行った。休日は、庭の手入れをし、読書をするのが趣味であった。
「…どうして父は、動かない時計を腕にはめ続けていたのでしょうか?」
真面目過ぎる父と、動かない時計が、どうしても組みあわない。
「この時計に、意味があったのかもしれませんよ…」
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