第1章

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 摩耗も計算に入れ、歪みでさえ正常に戻すシステムの構築がそこにあった。生きているパーツ。政宗は、パーツの設計の美しさに、唸っていた。 「会いたいな…」  会って話しがしてみたい。政宗は機械の構造に興味があり、その仕組みはよく考えていた。けれど、パーツが生きる仕組みというのは考えた事がなかった。  ガオンに行き、遺体と話をしてみるか。図面の中に寝転んだ政宗は、有毒ガスへの対応法を考えていた。 「政宗」  寝転ぶ政宗の部屋に、本当に珍しく茶屋町が入ってきていた。政宗は起き上がると、図面を見ている茶屋町を見た。 「呼んでも返答が無かったので、ここまで来てしまいました」  見ると携帯の端末にも、茶屋町から何回ものコールがあった。心配させてしまったらしい。 「ごめん。図面を見ていたら、熱中してしまった」 「そのようですね…」  女性の名前は図面に書かれていた。坂江 紫音(さかえ しおん)ガオンの精密機器を支えた人物。 「会いたいな…」  茶屋町が怪訝そうな顔をしていた。 「政宗…危険ですよね。分かっていますか?」  ガオンが危険なだけではない。ミラレスの天然体、しかも女性は宇宙全体が警戒している事柄なのだ。  かつて人体実験を繰り返した星、ミラレスは地球によって爆破された。子供は生かされたが、成人は全て星と共に消滅した。その子供のほとんどが、実験体と呼ばれ、実験により生まれた子供であった。  天然体は人間から生まれたが、実験体で得た筈の、優れた遺伝子のみで構成された人間であった。  その天然体のなかでも、女性は優れた遺伝子のみだというのに、心臓に失陥が起きやすく、生まれてすぐに亡くなるケースが多かった。しかも、その脳には、ミラレスの実験データが生まれながらに書き込まれていた。  ミラレスの実験データ、それが、全宇宙が警戒する事柄であった。 「でも、行きたいわけですよね…」  ならばと、茶屋町が条件を出した。まず、この事実を地球に公開する。地球軍と共同作業ならば、少なくとも地球軍には襲われなくて済む。  政宗は、ミラレスのデータが欲しいわけではない。 「その条件のんだ」  政宗が、地球に連絡しようとしたので、茶屋町が止める。 「俺が情報を流します。ユカラ経由で、地球軍に貸しをつくり、共同作業の条件をのませます」
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