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茶屋町は、作業場に戻り交渉するという。ユカラに渡すデータが莫大なのだそうだ。去り際に茶屋町は、小さな袋を政宗に投げた。
袋を開くと中には、時計のパーツが入っていた。
「二千翔さんが、遺品から見つけたそうです」
丁寧に磨かれたパーツは、全て揃っているようだった。
「時計にしてあげてください」
政宗が一瞬固まる。以前にひとつ組んではいるのだが、この時計、精密であるのだ。
「…簡単に言うな。徹夜になる」
茶屋町が笑っていた。その徹夜で組んだ時計は、茶屋町も愛用していた。
『永遠に刻む時計に、永遠に愛を誓う』
そんなキャッチコピーで、売られていた時計だった。本当に止まらない時計で、愛用者は多かった。今も、地味に今も人気ではあるが、生産がストップしてから長く、高値になっている。
「まあ、時計は動いているから時計だからな」
政宗は、左目を機械に切り替えると、コードを取り出した。この時計、左目でないと組み立てる事ができない。
「おとなしくしていてください」
政宗に、おもちゃを与えた茶屋町は、笑顔のまま去って行った。
永久時計、摩耗によってパーツが変形することを計算に入れ、全てのパーツが組み合わされている。摩耗には摩耗で応え、その歪みが他のパーツを動かし、自動で最適な位置となる。
政宗の生きた宇宙船は、本当に生きているが、この生きたパーツは無機質な鉱物でさえ生き物のように変えるものだった。
「…本当に凄い」
この仕組みの計算を行った人物は、天才なのであろう。
政宗は、真夜中でも、三階の部屋で時計を組み立て続けてしまった。政宗の左目から伸びたコードは、顕微鏡レベルの組立を可能としていた。本来は作業場で行いたいが、こんな楽しい事は、誰にも邪魔されたくなかった。
息子の時宗や真誓も、見つけたら組立したがるだろう。大人げない政宗であった。
「これ、時計だよね…」
時計の組み立てだというのに、その世界観は宇宙であった。引力が引きあうように、パーツが引きあう。時計という、こんな小さな世界だというのに、見つめているのは世界の摂理なのかもしれない。
天才である、江戸崎のデータには事実の集約があった。完璧な集約。でも、女性の天然体は、女性の考え方がある。ゼロから産みだし、生命を作る。世界は繋がり共鳴している。ひとつはひとつではなく全て、という思想があった。
「…天然体の怖さがあるな」
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