第1章

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 宝来は、助走も付けずに飛び上がると、政宗を蹴り飛ばそうとしていた。政宗が察知して、更に上に移動する。宝来に蹴られたポールが吹っ飛び、かなり遠くに去っていった。その勢いで蹴られたのならば、政宗の骨も折れている。 「近寄ったわけではない。偶然に来てしまっただけだ」  言い訳無用とばかりに、宝来が残ったポールの上に立ち、政宗を見上げていた。 「とにかく宝来、頭を冷やしてくれ」  政宗が地上に降りようとした瞬間、宝来が政宗を殴ろうとしていた。 「宝来!」  体勢を変えられない、政宗が身構えた瞬間、目の前には茶屋町がいた。 「はい、ここでストップとしてくださいな」  宝来の拳を、茶屋町が手で受け止めていた。 「茶屋町!」  茶屋町と宝来が、暫し睨み合うと、空気が緩んだ。 「そうだな、話しを聞こう」  茶屋町は、相当痛かったのか、手を振って紛らわしていた。 「宝来、今のかなり本気でしたね…」 「まあ、茶屋町の姿も見えていたからな」  宝来は、茶屋町が止めるのを計算に入れて、本気で殴っていたようだ。 「…俺を殴るつもりでしたか…」  茶屋町は、かつての上司、宝来を睨んで笑っていた。  政宗は、宝来の自室へと通されていた。王ランドの宝来の自室は、元は政宗の部屋であったので、間取りは熟知していた。  宝来は仕事の打ち合わせの後で来るというので、政宗はソファーで寛いでいた。茶屋町は、情報は全て宝来にも渡しからと、再び機材の積み込みに行ってしまった。  そう言えば、機材の調整に集中してしまい、三日程風呂に入っていなかった。政宗は、勝手にシャワーを使用すると、宝来の服を漁り着込む。洗濯もすると、乾燥機に入れておいた。 「俺の服を勝手に着るな」  宝来は服にうるさい。政宗のように、着られれば何でもいいというわけではない。 「それに、すぐに脱がせるけどな」  宝来は部屋に入ってくると、服を脱ぎ始めた。 「しかし、本当に偶然なのか…」  ミラレスの天然体、しかも女性で成人が、何故、記録から消されていたのか。 「偶然だ」  宝来は、裸でワインを飲んでいた。 「さてと、するかな」  何をだと政宗の反論を許さないように、宝来はしっかりと政宗の唇を塞いでいた。宝来の舌が政宗に入り込み、息を止める。苦しさで、政宗が喘ぐと、宝来は口の端で笑う。  再びキスをしながら、宝来は政宗を抱き上げ、ベッドへと運んでいた。
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