第1章

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 無人機が、地表に降ろされていた。  ガオンで坂江の遺体を探すと、地下部分に保管されていた。地表より更に有毒ガスの濃い地点で、人間が侵入できない。無人機で、有毒ガスの少ない地点まで運ぶという対策が出された。  しかし、遺体の保存方法の詳細がなく、運んでいる最中で腐敗が始まる恐れがあった。状況によっては、腐敗は内臓から始まる。脳を守るためには、内臓と切り離した方がいい。 「機材を地上にセットしても、有毒ガスのため滞在時間に制限が多い。データを取っている間も、常に地上には居られないでしょう」  政宗がかつてガオンに侵入し測定した、耐えられる限界時間は三日であった。防護服を着ていても、有毒ガスは粒子が細かく防ぎきれない。それが更に濃度を増し、今は数十分となった。  かつて人が住んでいた時よりも、有毒ガスが濃くなっているのだ。茶屋町は三年程住んでいたが、影響は少なかった。比べると、濃度の濃さが分かる。 「頭だけ、持ち出してください」  ボディは有毒ガスに侵され持ち出し禁止であるが、脳への蓄積は少ない。残酷ではあったが、もしかしたら、脳だけならば生きている可能性もあった。 「了解した」  地球軍から回答があった。  今度は、地球軍が無人機でガオンに降りると、坂江の脳が持ち出されていた。  地球軍から能を渡されると、まず、軍医である加賀へ渡し、脳のみを保存機器へ移す。  データの全ては地球軍のものと、立会には荒川が来ていた。  持ち込まれた坂江は、知的な美人であった。死亡当時は、二十一歳あたりであったのだろう。どこか幼い面影も残していた。  坂江の脳に、微弱な電気を流す。 「坂江さん。教えてください。その脳に異物はありますか?」  僅かな反応があったが、声にはなっていなかった。坂江は、有毒ガスで死亡していた。その脳は、崩壊はしていなかった。 「立花さんをご存知ですか?彼は、貴方の骨を持ち出し、俺はここに来ました」  どのような技術なのか、脳の入った水槽に、坂江の顔が映っていた。坂江の目が瞬きして、周囲を観察していた。 『経過時間は十一年ですね?』  坂江の声と同時に、浮かんだ映像の口が動いていた。 「貴方の死亡から十一年です」  坂江の顔が頷いていた。坂江が有毒ガスの発生経緯を説明しながら、避難完了の確認を行っていた。 『立花さんは、私の図面から試作品を作成する職人でした』
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