第1章

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 政宗も、この宇宙船事故のことは知っていたが、こんなに近くにあるとは知らなかった。 「当時は、宇宙船の恐怖症の人が多く存在していて、宇宙船では、簡易カプセルの中でないと眠れない、なんて人は本当に居た」  政宗の息子、時宗、八歳、何にでも興味を示すが、特に機械が好きだった。 「でもな、助かった家族は、家族用の簡易カプセルで食料、水まで揃っていた」  時宗は、怖いと言いつつも、政宗の言葉の続きを待っていた。 「そう、そこに居たのは家族ではなく、頼まれて事故を起こした者達、他に事故を確認するチーム、パニックを体験したい高額ツアーの人間たちだった」  茶屋町が、政宗よりも先に答えを言っていた。 「やっぱり、怖い話じゃないか、父ちゃんのうそつき!」  時宗は叫ぶと、一緒に聞いて?いたミチルに抱き付いた。ミチルも、泣きそうになっていた。 『確かに怖いっすよ』  ミチルは、耳が聞こえていなかったが、口を読んで、手話で回答する。 「保険金詐欺だったのだけど、余りに多くの犠牲者を出し、この会社は倒産。船は引き取り手がなくなり、宇宙を彷徨う事になった」  鉄黴が、そこまで広がるとは予想していなかったのだろう。 「豪華客船の登録ならば、設計には問題は無かったのではないですか?」  エイタも来ていた。設計図を確認して、首を傾げていた。  今日は、政宗が夕食を作り、皆に振る舞っていた。政宗は、よく料理をするが、最近は忙しく、作ったのは久し振りであった。政宗の妻の詩織(しおり)が、食事を作ったりしてはいるのだが、正直、不味いのだ。  ここに居る詩織は、機械で出来ていた。詩織は事故で体を失ったが、脳だけは人間であった。しかし、別の場所に脳を保管し、通信で機械のボディを操作している。政宗は、詩織に味見の機能を付けているのだが、あまり役にたっていなかった。  そのために、政宗が食事を作ると言うと、皆集まってきていた。 『政宗さん、デザートもあるっすか?』 「冷蔵庫にレアチーズケーキと、杏仁豆腐があるよ」  昔、料理人であった政宗は、料理が上手い。しかし、和洋中は入り乱れる。 「エイタ、設計の不備だけではないのだ。これを見てごらん」  安価で用意された部品は、事故船の寄せ集めになっていた。 「この設計には、強度の計算が無く、耐久試験もされていない。しかも、基準以下の安全装備しか用意されていない」 「殺人船だったのですね…」
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