*好きなモノ*

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「・・・本当に悪いわねぇ。うち高校生は雇わないことにしているの」 「・・・留年しただけなんですが」 「でも高校生でしょ!貴方、声も低いし口調が大人びて落ち着いていたし、敬語もちゃんと使えてるから、高校生だとは思わなくて! それに、身長180cmって聞いただけで興奮しちゃったのよぉっ! うちはこの通り、壁の上まで荷物が積み上がっちゃてるでしょ。荷物ひとつ探し出しのも大変で・・・唯一の希望!マッチョな川村さんが骨折入院だし、定年間近の親父ーー失礼、所長にまたギックリ腰でも起こされたら困るし、他は推定100歳の御隠居と私達ーーか弱い小柄な女性陣ばっかりで、喉から手が出るほど、ガタイのいい若いアルバイトが欲しくって!でも時給安いし、仕事の中身もちょっと特殊な上に、つまるところは肉体労働メインだったりで、なかなかいい人材が来なくってーーそこに電話で身長180cmって聞いちゃったから、あぁ希望が!!って即、思っちゃったのよぉ!」 面接官の女性は、身振り手振りを交え、情熱的にまくし立てた。 話の半分以上が意味不明の羅列で、耳の入口をつらっと通りすぎて行っただけだが、アルバイトを断られていることは理解できた。 というのも、アルバイトを断られるのはもう慣れっ子になっていたからだ。 大きすぎる体格はユニフォームの用意がない、表情の乏しい顔には接客業に向かない、無口な性格はコミュニケーション不足でチームワークが必要な労働には向かない、などなどお断りの理由など、今までたくさん承ってきた。 いまさら傷ついたりなどしないーーって、期待してしまっていたのは本当で、断られた現実そのものも懐事情直撃の、かなりの痛手なんだが、まぁそこはいつもの事だ。 前向きに次に行こう!
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