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照れくさくて、顔を見ては言えないけれど。
視線を逸らしたままで、私はずっと用意していた言葉を口にした。
「今まで、大事に育ててくれてありがとう」
真横で、息を飲む気配がしたからかなり驚かせてしまったのかもしれない。
でもギリギリで言えて良かった。
「……って、お母さんに伝えといて」
結局素直には言えなくてそんな風に言ったけど。
多分、後でバレる。
だってお母さんには昨日の夜にちゃんと言えたから。
父の返事がある前に、目の前の扉が開く。
ガラス窓の多い明るいチャペルで、向こう側は陽の光で溢れていた。
「幸せになりなさい。お父さんはそれだけでいい」
こんな際になって不意打ちで聞こえた言葉に、突然それまでは気配もなかった涙がこみ上げた。
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