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私が衝撃を受けている間に、サットー様は彼女を連れて奥の部屋へと行ってしまった。恐らくそう言うことなのだと思う。
目の前の男は先ほどの胡散臭い笑顔はもうなくてただただ悲しそうな顔をしていた。
そして、私が身体の弱いユリアを椅子に座らせるべく手を引いてロベルトと擦れ違ったときに彼が「ごめん、ごめん…。」と、呟いているのを聞いてしまったとき、私は自分が恵まれていることを改めて実感した。
「ユリア、座りましょう。」
ユリアと椅子に座りボーイが持ってきたジュースに口をつけているとダンスが始まり私はそれを淡々と見ていた。
「お姉さま、私もいつか踊れるかな?」
「ええ、踊れるわ。」
とか、
「あの方素敵ね。」
等と楽しく話に華を咲かせている内にいつの間にか時間は過ぎて自分達の執事にコートを掛けられ外に連れ出されて帰りの車を待っているとき、サットー様はまだ仕事がありここに残ると伝えられた。その時に私は目にしてしまったのだ。ロベルトに抱っこされ泣きじゃくりながら車を待つ彼女とそんな、彼女の手を握り心配そうに見つめる青年がいた。
ロベルトは私達に
「お見苦しい所をお見せして申し訳ない。」
と、言った。
「いいえ…。」
彼女もまだ心ある子供だと言うことに安心した。
「ミキ、泣き止んでよ。」
その時、隣に立つ青年がロベルトから少女を抱き上げて顔を覗き込みあやしたとき、
「ヴィン、ヴィン…。」
と、すがり付いて泣きついている彼女を見てきっと彼女が彼を好きなことを察した。そして、それと同時にロベルトがなんて残酷な人なんだと言うことも知った。
先に向こうの車が来て三人は私達にお辞儀をすると車に乗り込んで帰っていった。
これが、私が見たミキ ルーズベント スペンサーの最後の子供のような姿だった。
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