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「寢楽之助何か食べたいものはないか?最後の晩餐となるから好きなものを食べていいんだぞ」
看守がそう言うと、寢楽之助は暗い面持ちの顔を上げ答えた。
「プッチンプリンをくれ」
「それだけでいいのか?本当に何でもいいんだぞ?」
「いいんです。大丈夫ですから。問題ないですから……」
「お前はいつもそればっかりだな」
しばらくするとトレイに一つだけプッチンプリンとスプーンが乗せて運ばれてきた。本当に今日が死刑執行の当日だとは思えない天気だった。鉄格子ごしに見える空は真っ青だった。いったい、俺が何をしたというのか……?大量殺人犯?冗談じゃない。俺はネットでフカシてただけだ。
そんな輩は世の中にごまんといる。なぜ俺だけがこんな目に合うのか……。そもそも俺の偽物は誰なのか?考え始めるとキリがないな。だが、何か考えないと恐怖でどうにかなりそうだ。あと小一時間もすれば俺はこの世にいない。そんな世界が考えられるだろうか?現実感に乏しいが、それが現実だ。
寢楽之助はプッチンプリンをゆっくりと開けた。そしてスプーンを入れてかき混ぜた。下品だとよく言われたが無意識にやってしまうのでしょうがない。それにこの食い方の方が旨いのだ。
プッチンプリンが液状になると寢楽之助はスプーンで掬いゆっくりと口に運んだ。
ズズッ チュルチュルチュル……
これもまた下品だと言われたが、俺には問題なかった。このほうが食っている実感があった。
「うめえ……」
刑務所では甘い食べ物は正月と盆以外に出されることはまずない。長い勾留生活がかつて贅沢三昧をしていた俺の味覚をおかしくさせた。本来ならば行きつけの高級クラブでスイーツといくところだがここは刑務所だ。贅沢は言ってられない。
「うっうっ……何故か涙が……。プッチンプリンってこんなに美味かったっけ?」
俺はこの世で最後となる食べ物──プッチンプリンを味わいながら過去を振り返った。ガキの頃から喧嘩に負けたことはなかった。それは大人になってからも同じだった。俺は口もうまいし、腕っ節にも自信がある。だが、大量殺人などは断じてやっていない。こんな不条理があるだろうか?
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