第1章

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 時計を見てみた、秒針が進むたびに死が近づいてきていることが感じられた。天国には9つのランクがあるという。俺はどのランクに属するのだろう。いやいや、その前に地獄に堕ちるかもしれない。家族は3周忌にお参りにきてくれるだろうか?天国にいくか地獄へいくかはこの3周忌目に家族がお参りをするかどうかで最終審判が受けられるらしいことを以前聞いたことがある。  ちなみに、俺は父親の墓参りにも行ったことはないし、それどころか墓参り自体行ったことがない。無意味だと思っていたからだ。しかし……。今はどうだろう。もし、死後の世界があるとすれば絶対に来てもらいたい。そんな気持ちだ。  そうやって取り留めのない自責の念にかられていると看守の声がした。 「おい、寢楽之助。時間だ」  一瞬だが、手錠を嵌められていることを忘れていた。ガチャガチャという音を立てながら、俺はゆっくりと立ち上がった。いつも以上に鎖は重く感じた。まるでタイヤか何かを引きずっているようだった。  処刑室へ向かう途中、何か考え残したことはないかと思考を巡らせた。しかし、この世に3人同じ顔の奴がいると聞いたことがあったが、本当にいたとは……。だが、都合が良すぎだった。なぜ、タイミングよく、しかも偶然にも同じ刑務所の同じ監房に入ることになったのか?やはり、偶然なのだろうか?  今更だが真実を猛烈に知りたくなった。処刑室の扉が近づくにつれてだ。 「なあ、執行人さんよぉ。俺、本当に無実なんだ。真実を知りたい」 「あー。お前もか。ここに来ると皆そう言う。今まで何度も見てきた。だが、お前の犯した罪は当然免れることはない。しかも大量殺人だ。いったい何人殺した?まずそれを考えるんだな」 「……」  死刑執行人は面倒くさそうに答えた。もうこういうことには精神的に慣れきってしまって感覚が麻痺しているのだろう。今になって脱走するという考えが頭によぎった。しかし、10人以上の警備を突破するのはまず不可能だろう。  扉が開くと首吊りのロープが天井から垂れ下がっていて、落とし床の上に小さなのぼり台があった。 「さあ、あれに登るんだ」  俺がゆっくりとのぼり台に向かう間、死刑執行人はロープを念入りに点検していた。ご親切にもこれで即死らしい。苦しまずに処刑することが死刑執行人の情だというのだ。
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