第1章

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 一歩一歩、踏みしめながらのぼり台へ上がった。目の前には輪になったロープがあった。錯乱状態になりかけたが我慢した。というより、ここで暴れても意味が無い……。 「おい、何してる。はよう登らんか!」  死刑執行人の怒鳴り声が聞こえた。まあいいじゃないか。ほんの数秒程度だ。ゆっくりと登り台を踏みしめるとギシギシと軋む音が聞こえた。恐らく、刑務所が設置された当初からあるのだろう。  目の前には輪になったロープがぶら下がっていた。本当に現実なのかと疑ったが、どうやら現実らしい。じっと立ちすくんでいると、死刑執行人の声が聞こえた。 「ロープに首を通すんや!」  俺はゆっくりとロープに首を通した。ガタッという音がすると同時に首を締めあげられる感覚が襲ってきた。そして、爆音とアサルト・ライフルを連射する音、死刑執行人や看守の悲鳴がうっすらと聞こえた。  そんな俺は光に包まれたチューブ状の輪の中を超高速で進んでいた。いったい、どこまでいくのだろう?チューブは段々と暗い青色に変わりさらに速度を増した。  ちょっとまてよ?この速さは異常だ。俺は手を見てみることにした。すると、手どころか身体が半透明になっていた。これが死後の世界への入り口なのだろうか?そんなことを考えていると、目の前が真っ白になりどこかへ放り出された。 「何をしている!?軍曹、もうここは撤収するんだぞ?」  俺は思い出した……ここはガダルカナル島の最前線。大本営の陸軍作戦本部からの情報とは違い、突如として現れた米軍の圧倒的大規模艦隊で島の形が変わるような砲撃を続け、我が小隊も撤収を余儀なくされていた。 「はっ!少尉殿!すぐに……」  少尉を見ると頭が吹き飛んでいた。俺は絶句したまま動けなかった。しばらくすると、また意識が飛んでチューブ状の通路を超高速で移動し始めた。今のは何だ?俺はガダルカナル島なんて行ったこともないし、ましてや米軍と戦う記憶など……あった。  思い出した。出征時に涙を流しながら見送ってくれた母と妹。お国のためにと勇んで戦地へ赴いたものの碌な補給もなく、飢えやマラリアで苦しむ戦友。そして、圧倒的な米軍の大兵力。弾幕の雨が降り注ぐ中、玉砕していった戦友たち。  無念さで涙がでそうになったが出なかった。再び目の前が真っ白になると巨大なカマキリが鎌のような腕を構えてこちらを凝視していた。
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