第2章 賭博師のラブシュプリマシー

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「ってことは……」 「そうです。愚かなことに坂井さんはもう一度まったく同じ手口で林原さんを殺害しようと目論んだのです」  愛里は懐かしむようにして言った。 「まるで賭博師の確率論のように」  愛里は恵美のことを思い出していた。 『赤と黒の2種類の目が出るルーレットがあるとするよ。確率はどちらの目も2分の1。今、5回連続して赤の目が出た。賭博師はこう思うわけ。“あれだけ赤が連続したんだから次こそは必ず黒が出るはずだ”って。まあ、普通の発想なのかもしれないけどね。でも、結局確率は2分の1のまま。前までの結果が今回の結果に影響を及ぼすことのない、独立試行なのだから。何回やろうが変わらない。でも、賭博師は確率論を自己で勝手に構築して最後には破滅していくわけ』  その通りだ。策に溺れ、賭博師のように坂井は同じ方法で再犯に挑んだ。 「そしてあなたは私の手によってその確率論を破綻させられたんです」  愛里が眼鏡を取った。そして彼女はじっと坂井の方を見る。愛里が眼鏡を取ることなどめったにない。欠伸をして目尻に浮かんだ涙を拭くときだけだ。 「お前……」  だが、その眼鏡を取った愛里に坂井が反応した。 「……留美、か?」 「そうだよ、直人くん。びっくりした?」  坂井の顔がどんどん紅潮していく。  そう。土曜日のことだった。神楽坂愛里は遠崎留美に変装した。  金髪のウィッグをかぶり、眼鏡の代わりにコンタクトレンズを入れ、化粧を濃くし、普段なら絶対に穿かないようなミニスカートを穿いた。言葉遣いも普段の丁寧語をやめ、ギャルを演じた。  全ては坂井直人の自宅に入り込むため。 「お前、俺を騙したのか?! 留美、てめえ!!」  坂井がバタバタと足を踏み鳴らした。 「私は留美などという名前ではありません。あなたの隣人でもありません」 「くっそおお!」
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