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「その方のアカウントに飛び、その作業を繰り返すんです。坂井さんの次は田中さんのアカウントへお邪魔しました。田中さんの次は伊藤さんでした。そして、なんとですね伊藤さんは我が研究室の同期である澤田さんとお知り合いだったんです」
澤田に伊藤のLINEのアカウントを教えてもらい、連絡を取る。さらに伊藤から田中の連絡先を聞き出し、田中から坂井の住所を聞き出す。皆、愛里が必死でお願いしたら情報を簡単に喋ってくれた。
「こうして私は坂井さんの現住所を割り出したわけです」
「……」
「私は坂井さんに取り入りやすいように変装をしました。それにしても、短いスカートは心許ないですね。ついつい、気にしてしまいます。女子高生の方はよくあんなにスカートを短くして恥ずかしくないですね」
色仕掛けにまんまと嵌まったことが分かった坂井は荒れていた。日本語かどうかも釈然としない罵詈雑言を浴びせかけているようだったが、愛里はどこ吹く風だ。眼鏡をかけ直す。
「私はあなたの部屋でとあるものを探していました。証拠となるものです。まだ、あのときは坂井さんが犯人かどうか分からない状況でしたから」
紙袋だ。坂井が出かけようとしていた際に手に持っていた紙袋。
「証拠ってなんだよ。そんなもんねえよ!」
久し振りに坂井が日本語を発する。
「まだ認めませんか。ではひとつひとつ検証していきましょう。あなたの家にあった紙袋の中身について」
「うっ……」
そのとき警察官が無線機を取り出し、何かを指示しているようだった。どうやら、坂井の自宅に警察官を派遣し、愛里の言っていた紙袋を調べさせる気なのだろう。
「あなたは新聞を取っていない。なのにあなたの持っていた紙袋には新聞が入っていました」
「それがなんだよ!」
「マッチです。マッチで新聞紙に火を点けるんです。そうすれば当然燃えて煙が出ます。この煙を何に使うか……。スズメバチを弱体化させるのに使うのです」
「ちげえよ!!」
「残念なことに、新聞紙の下に入っていたであろう虫かごまでは見ることができませんでしたが、証拠はまだあります」
「うわあああ!!」
「あなたの冷蔵庫の中身です。お茶にビールにブドウジュースにカルピス……」
別におかしいもの入っていない。ここまでは。
「それから調理酒にお酢まで」
そのとき、颯太が口を開いた。
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