第2章 賭博師のラブシュプリマシー

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 やっぱりだ。恵美の死は事故なんかじゃなかった。  これは、警察すらも解決することのできなかった殺人事件だ。  それを神楽坂愛里という女性はわずかなヒントからこの結論まで辿り着いたのだ。 「それは全くの間違いです。部屋にそばがあったんですよね」 「はい……食べ終わったそばがゴミ袋に」 「恐らくそれは真犯人の置いたものです。恵美がそばを自ら食べて死んだと思わせるための隠蔽工作です。そうとしか考えられません」  しばしの間、沈黙が流れた。  その沈黙を破ったのは刑事だった。 「……神楽坂さん。その通りです」  刑事が頭を下げたまま言った。 「私共の完全な捜査ミスです! 言い訳のしようがありません!! 本当に申し訳ございませんでした!!」  その声は秋の通りによく響いた。周りにいた警察官全員も刑事と同じようにして頭を下げた。  血のように赤いパトランプにチカチカと照らされて、頭を下げる警察官達をじっと見つめている愛里の表情には何の感情も浮かんではいなかった。 「謝る相手が違います……」  その言葉は小さいながらもよく響いた。  ざあっと一陣の風が吹き抜ける。 「……それに、まだ、終わっていません」  そう。まだだ。  恵美の死は他殺だった。  ゆえにそれは不幸などではない。人為的な意思がそこに介在したのならば、それは不幸ではなくなる。犯罪だ。 「犯人はこの中にいます」
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