第2章 賭博師のラブシュプリマシー

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――――  颯太は林原の方を見た。  颯太にはこの悲しい事件の結末が分かっていた。  犯人は……。 「お前だよお! 林原ぁ! お前が恵美を奪ったんだ!!」  そう叫んだのは大人しく愛里の話を聞いていた坂井だった。再び、手をブンブンと振り回し、林原にまるで喰らいつこうとしているかのようだった。 「俺は俺から恵美を奪ったお前に復讐をするためにこんなことをしたんだ! そこの女の言った通りだよ!!」  颯太はがっくりとうなだれた。  分かっていた結末だが、辛い。親友だと思っていた林原が恵美を殺した張本人だとは……分かってはいたが認めたくはなかった。  刑事は愛里の顔を窺っていた。確保すべきかどうか悩んでいるのだろう。情けないと思った。 「刑事さん」 「……はい」 「犯人は林原くんではありません」 「……え?」  今の声を上げたのは颯太だった。  おかしい。辻褄が合わない。 「福豊くん。何を不思議そうな顔をしているんですか。当然じゃないですか」  愛里は責めるようにして颯太を見ている。 「ただの叙述トリックです。“復讐”という言葉に惑わされてはいけません」  そうだ。  坂井は恵美を殺して奪った林原に“復讐”するために計画的に犯行に及んだのだ。  それが叙述トリック? 「復讐という言葉を取っ払ってください。恵美は貞操観念のしっかりしていた女性でした。自分が好意を抱く者――すなわち彼氏である坂井さん以外の男性とのツーショットは、あれだけ派手に彩られたFacebook上に1枚もありませんでした」  確かにそうだった。 「恐らく見知らぬ男性を家に上げることもないでしょう。家に上げるのは、ごく限られた男性のみ」  おかしな点はない。 「死体発見時、恵美の家は施錠された密室。鍵は彼女と遠方の彼女の親が持つのみ。すなわち、密室は彼女が自ら鍵をかけることで成立したんです」  恐らく間違っていない。 「鍵をかけたということは訪問客は彼女の見知った顔だった。部屋に荒らされた形跡がなかったことからもそれは明らかです」  愛里は部屋が荒らされていないこと前提で話を進めている。だが、もし荒らされていたら事件性が疑われたはずだ。恐らく部屋は整っており、不審な点はなかったのであろう。
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