第2章 賭博師のラブシュプリマシー

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「賭博師の確率論です」  今度失敗したのだから、次こそは成功するはずだ。何も恐れる必要はない。失敗の先には必ず成功がある。 「知っていますか。自分が賭けに勝つ確率が50パーセントよりも0.1パーセントでも低ければ、勝負を続ければ続けるほど、自分の持ち金が多ければ多いほど賭けに負ける確率は高くなるんです。数学的にシミュレートされています」  これを賭博師の罠という。 「どうやら本当だったようですね」  そばによるアナフィラキシーショック殺人は何回も死のキスを繰り返すことで勝った。  だが、スズメバチによるアナフィラキシーショック殺人は試行回数2回目にして犯人の負けが決まった。 「自ら破滅した賭博師はあなたです。坂井直人さん!」  愛里は眼鏡を指でくいと押し上げてそう宣言した。 「え、和明は……?」  颯太は自らの推理が間違っていたことを悟っていた。確かに復讐ということを考えなければ、林原よりもむしろ本当の彼氏であった坂井の方が犯行に及びやすそうだ。 「林原くん。恵美とキスをしたことは?」 「ありません」 「そばアレルギーだったことは」 「知りませんでした」 「そもそも恵美の家に行ったことは?」 「付き合ってもない女の人の家になんて行きません」 「……だそうですよ、福豊くん」  林原はどこか遠い目をしながら愛里の質問に答えた。  こうして第二の密室も解かれた。  奇しくも、これは第一の密室と似ているのだった。凶器は密室ができる前でも後でもなく、同時に恵美に牙を剥いたのだ。 「恵美は坂井さんの就活が終わったら坂井さんとは別れると言っていました。恐らく坂井さんは恵美の本当に好きな相手ではなかったんです」  坂井にショックを与えないために今は付き合い続けているが、坂井の就職活動が終わったら恵美は坂井と別れるつもりであることを渋谷で愛里に話していた。 「きっと、好きな人ができたんですよ、恵美は」  いつも周りに求められるがままにキャラを演じてきた恵美。  そんな彼女はある日劇的ともいえる出会いをする。  付き合いで見に行ったテニスの試合で、華麗にテニスボールを捌く林原と。 「そうです。恵美は今の彼氏と別れたら俺と付き合うって約束してくれました。彼氏の就活が終わるまで待ってほしいって。だから俺はそれまで我慢した……告白もせずに……デートも控え目にした……!」
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