第2章 賭博師のラブシュプリマシー

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 きっと恵美の数学好きも勝手に林原のせいにしてしまっていたのではないだろうか。恵美は穢された。林原という男によって。だから自分を見てくれなくなったし、数学なんてものに夢中になる。  確かに恵美にも落ち度はあった。坂井と付き合っていたにもかかわらず林原に恋心を抱いてしまったのだから。それでも彼女は坂井との関係を維持した。彼女は優しく、面倒見が良かったから。せめて、坂井がひとり立ちできるようになるまでは側にいてやろうと考えたのだろう。  その考えが今回の事件を招いてしまった。 「あなたは愚か者です」  見下すようにして愛里は言った。 「違う違う違う違うやったのは林原だ俺から恵美を奪ったのも何もかも林原なんだ林原ああお前が悪いんだ……」  お経のように呟き続ける坂井。 「刑事さん、坂井さんの自宅近辺のコンビニを当たってみてください。この方は料理をしません。食事はいつも決まってコンビニ弁当だったみたいです」  坂井の家に侵入したときに見た情報だ。 「それでコンビニの店員さんに聞くんです。そばばかり買っていく男性客がいなかったかって。それは坂井という男ではないかって」  そばに含まれるアレルゲンを口移しするために恵美に会いに行く度にそばを買っていたのなら、店員がもしかしたら覚えているかもしれない。  もうそうなったら言い逃れはできないだろう。 「分かりました。すぐに手配します」  刑事はもう一度深く、深く、愛里に頭を下げると坂井をパトカーへと乗せた。坂井はもう心神喪失といった様子でされるがままだ。そのまま坂井を挟み込むようにして警察官がパトカーに乗り込むと、パトカーはうるさいサイレン音を響かせながらこの場を去っていった。
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