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林原はどんどん小さくなるパトカーを見るでもなく、ただ秋の晴れ渡った空を眺めていた。彼の頬には流れた涙の痕がある。
「和明……俺……」
颯太は項垂れたまま林原に声をかけた。
「俺……お前を疑った……友達なのに……本当にごめん」
林原は涙を拭うことなく颯太の方を見ずに言った。
「別に気にしてねえよ。お前の不幸に巻き込まれるのには慣れてる」
「でも……!」
「だってさ、お前あちこち動いてくれたんだろ。それって全部俺のためだったんだろ。お前、言ってたじゃん」
『俺はお前のことを大切に思っている! だから、たとえお前の口からどんな言葉が出てきても、俺は……受け止めてみせるよ』
そうだ。確かに言った。本心だ。
「最初は何言ってんだこいつって思ってたけど、お前のめちゃくちゃな推理を聞いて思ったよ。颯太はバカだけど本当に俺のことは友達だと思ってるんだなって。どうせ、自首でも勧めようと思ってたんだろ。少しでも罪が軽くなるように。坂井から襲われることもなくなるように」
「……ごめん」
林原が颯太の頭に手を置いた。
「謝んなって。だってさ、結果オーライじゃん? 神楽坂先輩が全部解決してくれたよ……」
愛里の方を思わず見る。そうだ。またお世話になってしまった。
お礼を言わなければ……。
そう思った矢先だった。
「ううっ……」
愛里の目から涙が溢れた。
「恵美……」
愛里は泣いていた。
涙が止まらない様子だった。
そのまま膝から地面に崩れ落ち、顔を手で覆って本格的に泣き始めてしまった。
「神楽坂さん……」
彼女だって辛かったのだ。
親友を喪って。
颯太は着ていたカーディガンをそっと愛里の肩からかけてやる。彼女の小さく骨ばった肩は彼女が嗚咽を上げるたびに小刻みに揺れた。
「ようやく……泣けました……決着が着いたら……安心してしまって……!」
恐る恐る愛里の肩に手を置いた。温かかった。人の温もりだった。
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