~プロローグ~  天才降臨

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 テレビのバラエティなどで、わさび入りのシュークリームを罰ゲームで食べた芸人を見ると、それをマネして冷蔵庫から生わさびのチューブを取り出し、口に思いっ切り吸い込んで入れると、顔を真っ赤にし、涙目になって苦しんだ後、倒れ込み、もがきながらも声に出して笑った。  直広の書庫に勝手に入ると、読めもしない外国語で書かれた本を荒らしては適当に本のページをパラパラとめくり、読むと言うよりはむしろ見ている感じである。  小学校のテストは白紙か折り紙に変えて提出、授業中は上を向いてあくびをしていて、携帯ゲームをして遊び、風景画や模型などの写真が写った本を見ては、無表情な顔をして口だけが小さくニヤニヤと笑みを浮かべて見せていた。  団体行動は好まず、友達もいなかった。遠足は勝手に1人で何処かに行ってしまうので、学校側から参加を拒否されたのだ。  当然直広は正を何度も厳しく叱った。しかもその形相は我が子に向けるものでは無い、ミスを犯した社員の大人達に向けられるものだった。直広の威圧感は大の大人ですら恐怖を感じさせる。  直広が何よりも許せなかったのは、テストで毎回0点のテスト用紙を持って帰って来る正だった。彼の思考は100点以外は全て0に等しいと思う概念がある、王としての不屈の精神があったからだ。 直広は父として、誇りある尾栢家の一員として、幾度となく正に怒声を浴びせた。それでも、正はどんなに怒鳴ろうが泣く仕草は一切は無く、無表情の気の抜けた声で返事を返すだけであった。  これは明らかに可笑しいと意識を持った元看護婦長の母加代子は、病院で正の脳を検査して貰うのを決めた。 検査の結果は、正の脳は発達障害と医師に告げられた。  直広はそれを聞くと酷く落胆し、その現実を受け入れられなかった。  産まれて来た、ただ1人の我が男の子が脳に異常があり、王となる者が普通の子として生きられないという現実にだ。直広の脳裏に絶望が駆け巡る。  正の事は身内以外、誰にも直広は話さなかった。それは王の中の王の子が愚息の子供であるという真実が、直広の王の中の王の高き誇りを傷つけるからであった。  しかし、望みはあった。それは長女の麗華である。
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